㈱柴田書店『月刊ホテル旅館』寄稿コラム 2014年5月号より
  • 第十五回 スポーツ・文化ダボス会議
  •  今、5月号の原稿を書いておりますが、書きたいテーマが多くて困ります。月刊ホテル旅館が週刊にならないか。そう思ってしまいます。それほど、ネタが多くなった昨今です。結構なことです。話題が増えてきたということは、世の中が急速に動き出している証拠です。停滞から動きへ。サービス業に携わる私たちは、この変化を逃してはなりません。さて、今月号です。あれも書きたい、これも書きたいと悩んだ末、少し前のことになりますが、3月1日のことをご紹介しましょう。この日、下村博文文部科学大臣が大阪に来られました。下村大臣は教育再生担当、東京オリンピック・パラリンピック担当を兼ねています。「関西から東京オリンピックの意義を考える」という演題で講演をしていただきました。大阪商工会議所だけではもったいないので、近畿商工会議所連合会の主催にして他の経済団体にも声をかけて関西全体の行事にしました。余談ですが、この日は友引の土曜日。大阪のホテルはどこも婚礼で予約がいっぱい。大広間が取れず、苦労の末に狭い部屋を確保しました。婚約が整っているのなら消費税率アップ前に婚礼を挙げるのは当然です。あるいは、どうせ結婚するのなら婚約を整えて消費税率アップ前に挙式となるのもわかります。
  •  さて、大臣のお話です。講演に先立って昨年末に大臣のお考えが私を含めて関西の総意に合っているかどうか、東京で大臣に直接お会いして確かめました。「東京オリンピックと、東京の名がついていますが、東京だけのものではありません。日本オリンピックです」と、下村大臣は力強く言われました。まったく同感です。東京の権力中枢にいるオリンピック担当大臣は、東京オリンピックをきっかけにして日本全体を元気にさせたい意向のようでした。オリンピック開催によって東京一極集中をさらに加速させてはならない。その意思も感じられ、私は大変意を強くした次第です。 1964年東京オリンピックは、高度成長経済の真っ只中の日本で開催されました。日本全国のすみずみで、国民は東京オリンピックをわが事のように喜びました。日本の発展を自分と重ねたのです。2020年東京オリンピックは、成熟国家の日本での開催となります。前回のオリンピックとは異なります。私たちはどう向き合えば良いのでしょうか。
  •  学ぶべきは先のロンドンオリンピックです。カルチュラルオリンピヤード。英国本土で文化の行事が多種多彩に催されました。オリンピックは、スポーツの祭典であると同時に文化の祭典でもあったのです。主役は国民。自らの生活の文化を文化の祭典で表現しました。オリンピック開催の数年前から文化催事は開催され、オリンピック終了後も続き、それが人気で観光インバウンドは現在も右肩上がりです。関西は文化の宝庫。文化の力で、東京オリンピックを支えることができるではありませんか。2020年東京オリンピック開催はロンドンの先例に学び、関西が文化の力を発揮して成功に結びつけたいものです。大臣の講演前の挨拶で、私はそんな趣旨のことを申し上げました。下村大臣も講演で同調してくださいましたが、さらに思わぬ提案がありました。2017年にスポーツ・文化ダボス会議が日本で開催される方向にあるので、関西が名乗りを上げたらどうか、というのです。講演後、下村大臣に、文化催事を催すに当たっての支援、オリンピック選手のトレーニングキャンプ実施支援などについての要望書をお渡しましたが、要望書がかすんでしまうようなビッグな大臣提案でした。早速、京都、神戸の商工会議所と協議を始めます。日頃、3商工会議所は会頭同士が仲良くしていますが、大阪、京都、神戸は文化の個性が異なり、総合力を示せば強い関西となる、との思いからです。外国では大阪、京都、神戸は知られているのですが、関西といった途端、怪訝な顔をされます。スポーツ・文化ダボス会議で真の関西ブランドをつくり出せるか、会議所の真価が問われています。関西では、関西広域連合、大阪都構想と、行政をひとくくりにして現状より大きな力を発揮させようとの試みがされています。だが、なかなかうまくいっていません。利害の衝突、文化の個性の違いなどをひとつにまとめるのは容易ではないからです。あまり理想を追い続けていると、現実の動きが早いものですから、変化についていけないことになります。
  •  こんな時こそ、スポーツ・文化ダボス会議を関西で開催して成功に導き、模範を示すことです。しかし、ここでもひとつに束ねる困難が待ち受けます。リニア誘致合戦の二の舞にしないことですが、そのためには大局に立って大同団結するルールを確立することです。そして国際会議を開催するにふさわしい収容人員の大きな施設を有する都市であること、関西広域への波及効果をもたらすため交通至便な都市であること、海外とのつながりが深い開かれた都市であることなどについて認識を一致させ、そのルールに従うことです。それにしても、今回の下村大臣の講演には関西広域から300人近い人が集まりました。東京オリンピックに対する関心の高さを物語るものでしょうが、参加者にはご当地の文化をどう掘り起こして、どうアピールできるかが問われています。
  •  東京オリンピックの開催をきっかけに、どう成熟国家・日本を成長させるか。下村大臣の問題提起に、関西は応えることができるのでしょうか。中国、四国、九州、もちろん中部、関東、東北、北海道も土壌に育まれた文化を有しています。日本列島の各地で文化の競演があってこそ、日本の魅力を発信することができ、世界中から多くの人が訪れることになります。すでに、東京オリンピックのスタートの号砲は鳴りました。

((株)柴田書店出版の『月刊ホテル旅館』に2014年5月号より掲載開始。)