㈱柴田書店『月刊ホテル旅館』寄稿コラム 2014年4月号より
  • 第十四回 「東北」を忘れるな 
  •  冬来りなば春遠からじ。その思いで、2月中旬に厳寒の東北に行ってきました。毎年、東日本大震災の被災地を訪問していますが、初夏、秋の頃と穏やかな季節でした。東北の厳しい季節にこそ、被災地の春の息吹を感じ取ってみたい―伊丹空港から仙台空港に飛び、2泊3日で名取市、南三陸町、陸前高田市、気仙沼市、女川町、宮古市、山田町、大鎚町、久慈市などを視察しました。定点視察を大切にしております。復興の進捗状況が見た目で比較確認できるからです。日本の東が危機にある。これは日本の危機だ。関西が立ち上がるべきです。震災直後、京都大学の中西寛教授からメールが入ってきました。大阪大学総長だった鷲田清一さんに文案をつくっていただき、「ささえよう日本 関西からできること」という関西の文化人、経済人連名のメッセージを出しました。あの時は、日本の非常事態だ、被災地の復興にお役に立ちたい、被災地の復興なくして、日本の再生はあり得ない。そう思い詰めたものです。
  •  あれから3年が経ちました。私が副会頭をおおせつかっている日本商工会議所でも、福島の復興なくして日本の再生なし、と被災地の復興を最優先にして取り組んでいますが、今回厳寒の東北を訪問してみると、半年前とは風景が違っていました。瓦礫の山が消え、地盤のかさ上げ用の土が積まれていました。防潮堤の建設も始まりつつありました。漁港も整備され、冷凍、加工工場も竣工して稼働していました。力強い姿を見るのは感動的でした。しかし、復興の歩みとしてはやっと緒に着いたばかりと言えましょう。仮設住宅でのストレスのかかる生活は長期化しています。住宅地の建設、市街地の復旧が進んでいないからです。厳寒の被災地の春は、まだ足音だけ。そう言ってよいかと思います。
  •  震災後、南三陸町を訪問した時、気骨ある商店主が立ち上がってつくった仮設商店街に驚いたものです。旧市街地は跡形もなく消失、内陸の数キロ入った場所に商店街はつくられていました。日々の生活に困っている町内の人たちのための食料品、日常品などの店舗が揃い、理容などのサービスの店舗もできていました。住民が一堂に集まる集会場まであります。困難の中、いつも真っ先に立ち上がるのは商人。閖上(ゆりあげ)、気仙沼など他の仮設商店街を見るにつけ、私はそう確信しました。不屈の闘志の持ち主の商店主たちが立ち上がって復興商店街をつくり、住む人たちが生きる力を授かる。日々の暮らしの原点を見出すことから復興が始まるのです。昼食に訪れた閖上、気仙沼の商店街の一角にある寿司店の主人と顔なじみとなりました。閖上の主人は本店の復旧の目途が立たない不安の中で、経営をしています。いら立ちを隠せないように見えました。気仙沼の主人の一言が気になりました。前に来た時には関西方面からのお客がいたけど、最近はどうですか、と質問しましたところ、だんだん来る人が少なくなってきました、と返ってきました。時間の経過とともに、忘れ去られつつあるのです。これを風化と片付けてしまうのは、何か割り切れません。第一、放射能汚染の風評被害だけは相変わらず続いているのですから。
  •  福島の復興なくして日本の再生なし。私たちは肝に銘じて、東北にいつも目を向けておくべきです。近い将来、首都直下型地震、東南海地震が発生する確率は高いそうですから、大災害が襲ってくる前に、東北の被災地の復興を実現しなければなりません。元気なうちに、お役に立たなければなりません。確かに遊休機械を提供したり、東北の物産を購入したり、全国から支援の輪が広がっています。しかし、正直に言って、それだけで被災地の救済につながるのだろうか。何もしないよりはマシではあるけれど、被災地に対する上から目線だけのことではなかろうか。寿司店の主人の言動からそう、疑問に思うのです。東北にカジノを誘致すればよい、特区をつくればよい、といった提言を耳にします。悪くはありません。だが、やはり何となくスッキリしません。性根を入れての復興には思えてこないのです。そこで、提案です。全国から復興視察ツアーを行なってはどうでしょうか。復興の進み具合を国民一人ひとりが現地で確認するツアーです。それは、いずれやってくるであろう自分の住む場所の大災害への備え、危機管理でもありますが、荒廃した大地の中、不屈の闘志で立ち上がりつつある東北被災地の皆さんの姿から勇気をもらう、感動ツアーの意味のほうが大きいと思います。遭遇した国難から立ち上がる姿を後世に伝える責任もあります。大阪以西沖縄までの西日本の人口は約4890万人です。これに対して東北は約980万人。約5分の1です。西日本からのツアーの効果が充分に想像されることと思います。ご当地の名産品の売れ行きを通して遊休機械はフル稼働するでしょうし、道路、鉄道など交通インフラの整備が促進されます。雇用も回復することでしょう。市街地の復旧も加速されるでしょう。東北被災地の復興視察ツアー。「観光は手づくりで」という私の日頃の主張にピッタシですが、ボリューム追求の大手旅行会社こそ、復興促進で大きな役割を果たせるというものです。どこぞ、名乗りを上げてくれないかと期待しているのですが、そこはビッグ3のことです。気付かないのは私だけ。もう実施しております、と言われるかもしれませんが。

((株)柴田書店出版の『月刊ホテル旅館』に2014年4月号より掲載開始。)