佐藤会頭の眼~講演録
Chairman’s Eye with you

2013年(平成25年)9月12日(木)

第55回中小企業団体大阪大会

 私どもの会社、幸い良い伝統もありまして、組織というのは必ず良い部分もあり、良い人もいるわけです。そういう人たちに守られているか、見られているかどうか、そういう上司に巡り会えたかどうか、そこが大切なのですが、幸い私の場合良い上司が何人かいたということなのです。一例を申し上げます。
 私は広報課長から人事課長になりました。広報課長というのは割と新聞記者の皆さんとお付き合いしたりして、自由な生活というか、自分の考えを述べたりできるのですが、人事となりますとそうじゃないですよね、大変堅苦しい。広報課長の時に人事担当の専務が「佐藤くん、人事で頑張ってくれ」とこう言うのです。その時私ははっきりと断りました、これはサラリーマンとしてあるまじきことなのですが断りました。どういう言い方で断ったかというと、また実際私は、人事は窮屈な感じがして、そんなところは嫌だと思ったものですから、「私は自分の足に合わせて靴を選んでいる。靴に足を合わせるような生き方はできないのです」とこう言ったのです。そうしたら、当時の専務は「それで良いのだよ。君の好きなようにやりたまえ。」と言ってくれたのです。それで人事の方で伸び伸びとやってきた、とこういうことなのです。組織そのものは保守的なところもありますけど、中の人間は理解を示してくれる人も必ずいる。こう信じてやっていっても大丈夫だと私はそのとき思ったわけでありまして、自分の考え方をはっきり言うということで今日まで来ているわけであります。

 保守的な風土、恥を忍んでもう1つ申しましょう。(映像)これは私どもの「くずはローズタウン」であります。これは昭和30年代に土地を買収したわけです。ご承知のように広大な敷地でありますが、この時京阪電車はお金が無かったので銀行がお金をなかなか貸してくれない、また地主さんにお返しができない、借りたお金を払えないという時代が続きました。それでも買収したわけです。その当時の不動産担当者は偉い方だったと私は思いますが、地主さんから買ったことにして契約を結んで、地代は後ほど金利をつけてお金が入った時に払うというやり方でここを買収したわけです。それが今日大きな利益を産んでいるわけですが。これはもう典型的な含み益依存型の経営なのです。年々土地の値段が上がります。金利をつけても、それを折込んで売れます。少しずつ売って行けばよい。これが私鉄の典型的な不動産経営であります。このビジネスモデルがバブル崩壊後、破綻したということですね。

2013.9.12中小企業団体中央会 _ページ_07.jpg「造成前のくずはローズタウン航空写真(1967年)」

 次に行きましょう。これが当時の沼地のところをこういう風に造成したわけです。それでくずはロ-ズタウンは田んぼの中ですからお買い物の場所が要るということで、その時の経営者は偉いですね、アメリカに学んで来て日本で最初のオープン型モールとしてくずはモールを作ったたわけです。日本最初でありまして立派なセンスの持ち主です。その後人口の都市圏集中により郊外の住宅を買ってくれますから、お客さんが張り付いて商業施設として成功するわけであります。そこでまた、私鉄経営の悪いところが出てしまうわけです。当然利益が出ます。利益が出るものですから中々リニューアルをしない。商業施設なんてやはり数年に一度はリニューアルしないとお客さんが離れてしまいます。周辺に新しいのが一杯出てきます。しかし、くずはモールの場合は固定賃料が入りますから、利益が出ているので敢えてリニューアルすることはないわけで、鉄道経営が陥りやすい一番良くないワナにはまってしまう訳です。
 それで、リニューアルしたのがこれです。(映像)2005年やっとリニューアルしたわけです。この時の数字の比較を(映像)リニューアル前、営業面積、こんな違いがあるのです。売上高も3倍以上増え、店舗数もこんなに大きくなっているのですが、一番ご覧頂きたいのがこの投資の利回りなのです。リニューアル前4.3%でした。もうこれで十分だと皆思いますよね。ところがリニューアル後10.6%になったわけですね、これは初めて京阪電鉄が過去のビジネスモデルから決別した一番良い事例だと今でも信じています。

2013.9.12中小企業団体中央会 _ページ_09.jpg「くずはモール街」

 鉄道会社というのは先ほど言いましたように不動産経営ですから土地を持っています。このモールの土地は京阪電車です。京阪電車はモールをつくってテナントさんに入ってもらって、頑張ってもらって固定賃料をいただくわけで、それで満足していたわけですが、それは京阪電車は随分前から買った含み益依存というか、安い土地を買って、簿価が安いからこういう利益が出るのですね。それがもしイオンさんが出たら当然その時の時価で土地を買いますね、それでもって利益を出さないといけないわけです。その発想が、鉄道会社、特に京阪はなかったわけです。

2013.9.12中小企業団体中央会 _ページ_12.jpg「KUZUHA MALLリニューアル(2005年)」

 それでPMといいますけども、土地を持って資産をどう活かすかということで、プロパティマネジメントの発想でもって、テナントさんに頑張ってもらう、あるいはお客様のニーズにお応えできるようなテナントを入れて頑張ってもらって、お客さんは「くずはモール」はやっぱりすごいなぁ、あそこに行けば何でもある、最先端のファッションが身につけられるということでお客さんの支持を頂いたとこういうことで利回りが大きくなって、それでもって電鉄の方へ賃料を払う、とこういう仕組みに変えたわけです。どんぶり勘定みたいな発想をやめて成功した事例がこのくずはモールであります。資産価値を生かす方法を考えてくれ、という私の要求に当時若い課長がAM、PMの仕組みを持ってきました。今、第二期工事をやっておりまして、また近い内にオープンするわけでありますが、お客様の支持をさらに受けられるかどうかここが正念場であります。

2013.9.12中小企業団体中央会 _ページ_11.jpg「現在のくずはローズタウン航空写真」