関西とく論(2013年10月22日付 日刊工業新聞24面) 「上」
  • 「東京五輪に関空活用を~先進国モデル世界に示そう」
  • 特別な感懐
  •  東京五輪の開催決定に特別な感懐を抱いた。わが国も外交とか交渉術の力をどうやら付けてきたようで、激しく国益のぶつかり合う環太平洋連携協定(TPP)交渉も、これなら案ずることはないと思ったからだ。人情に訴えるだけでは世界に通用しない。何事も主張して理解を得る努力すれば、通じることが分かった。今後の日本の対外交渉に大きな自信をもたらすことになる。
  •  前回の東京五輪が決まったのは1959年5月。アジアでの初開催に日本列島は沸きかえった。繰り返し電波に流れた三波春夫の東京五輪音頭が物語るように、国中が東京五輪開催を祝った。国民は戦後の荒廃から立ち直っただけでなく、奇跡的な経済の高度成長を遂げた実感を東京五輪で確認した。
  •  当時、大学生の私は、この時にしか持てない夢を追っていた。東京五輪に出場することだ。所属する大学のボート部は全日本級の実力。五輪出場も夢ではなかったが、とんでもない事態が発生した。漕艇協会が突如選抜クルーを編成すると発表したのだ。しかも関東の大学に絞って選抜してしまった。明らかに公平公正を旨とするスポーツマンシップに反する。抗議の声に協会はおされ、東京以外の大学が選抜クルーに挑戦することになった。しかし特別の環境下で鍛えられたエリート集団に勝てるはずもなかった。
  • 青春の一事件
  •  いまは青春の一事件として懐かしく振り返るだけだが、今回の東京五輪の開催決定に、ふつふつと疑念が湧いてきた。東京の大学生から選抜してクルーを編成するという構図は、いまも続いているのではないか。東京だけが日本で、地方は挑戦するだけと言う構図である。その構図の象徴として、今回の東京五輪があるとしたら、喜んでばかりはいられない。今回の東京五輪の招致活動は、東京だけの話だと思っている国民が大部分だったのではあるまいか。
  •  開催が決定したからには、日本中が開催の意義を共有できる運営に持って行ってほしい。成熟国家には成熟国家ならではの五輪を開催して先進国版のモデルを世界に示してもらいたい。
  • 地方の疲弊
  •  五輪を成功させるために、またもや首都圏へ集中投資が行われる動きがある。大混雑を解消しようと都内の交通インフラを整備するのは一見矛盾がないように思われるが、先進国の日本である。各種施設は十分整っているのだから、既存インフラの活用を優先してほしい。また入国者の利便性を考えて成田、羽田両空港が整備されようとしているが、世紀の祭典で東京一極集中を加速させれば、地方をますます疲弊に追い込むことになりかねない。
  •  そこで提案だ。海外からの入国に関西国際空港を活用することだ。既存施設の活用という点でも意義があるが、関西からの入国を増やせばもっと大きな価値を見い出せるはず。例えば新幹線。東海道新幹線は57年前の東京五輪に合わせて開業し、今も所要時間の短縮やサービス改善など進化している。関空から入って新幹線で東京に移動してもらう。新幹線が年数を経てなお進化し、存分の役割を果たしていることを知ってもらえる。そうした取り組みが成熟国家の日本にふさわしい五輪の開催である。