関西とく論(2013年10月23日付 日刊工業新聞22面) 「中」
  • 「日本にカジノは必要か~華麗な文化の開花を~」人が人を呼ぶ都市を目指す。
  • 庶民が楽しむ
  •  カジノを誘致して地域を活性化しようとする動きがある。カジノと言うと、誰もがラスベガスを思い浮かべるが、随分前に米アトランティックシティーでカジノを経験したことがある。ラスベガスは金持ちの行くところだが、アトランティックシティーは庶民がバスでやって来て楽しむところだという。
  •  数年前にシンガポールにできた二つのカジノも視察した。当初反対派のリー・クアンユー氏が決断力を発揮してゴーサインを出したそうだ。観光地、リゾート地であるセントーサ島のカジノは、近くにユニバーサルスタジオや水族館などあって家族そろってレジャーを楽しめる。総合リゾートとして完成度を高めるためにカジノを誘致したのだろう。
  •  さてMICEをご存じだろうか。Meeting、Incentive Tour、Convention、Exhibitionの頭文字を取ってMICEと言う。いわゆる国際会議やイベント・展示会などの総称で、各国がMICEで海外からの集客を競っている。2年前、香港の国際会議場に行った時だ。地下鉄の駅から次々と人が出て来て会議場に入ってくる。コスプレとアニメのイベントを開催していた。不思議に思って貿易発展局副総裁に質問すると、「人が集まるから世界中から人がやって来る」と説明された。それがMICEではないかと感じた。
  • 外国人に大受け
  •  今夏、シアトルに訪米した時のこと。国際会議場の職員から「堺の包丁とマグロの解体ショーの見本市が出来ないか考えている」と聞かされた。大阪ではマグロの解体ショーは人気イベントで外国人にも大受けだが、残念ながら堺の包丁と結び付ける発想は出てこない。マグロの解体も包丁も日本の文化だ。香港のイベント同様に、日本のコンテンツが海外で紹介されるのは誇らしいが、なぜこれらが日本で開催できないか反省すべきだろう。
  •  人が人を呼ぶ、それがMICE都市であり、企画力が勝負のかなめだ。日本の文化には強い発信力があり、人を引き付ける力もある。自信を持ってもっと世界に発信してもよい。その視点で大阪を見てみよう。天下の台所と言われた江戸時代、そして大正末期から昭和初期の大大阪の時代には、華麗な文化の華が浪速の地に咲いた。今は辛うじて大地に根を張ってはいるが、土壌の手入れや肥料を施す人がいないため、浪速の大地に花開くことができないでいる。文楽しかり、能、歌舞伎しかり。また芝居小屋すなわち今風に言えば劇場や音楽ホールも数少ない。
  •  文化には人を引き付ける力がある。そして日本の
  • 都市文化は多彩で多様性を秘めている。日本の文化は異なる文化の同居を認める許容性があると言うことだ。決して一つの文化が他を駆逐することはない。
  • 許容性の問題
  •  大阪にカジノが必要だとの声があるが、文化の持つ力の大きさに無自覚のままカジノを誘致しても、都市の魅力が発揮されるものでもない。加えてカジノには賭博的要素がある。シンガポールの事例を冷静に比較検討することだ。果たして日本にはカジノを受け付ける土壌はあるのか。それはひとえに文化の許容性の問題でもある。浪速の大地に眠る多彩で多様な文化を花開かせることができるかどうかが問われている。