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2018年3月 6日

台湾視察を終えて(2016年11月 台湾ビジネス視察団 団長所感)

台湾シルバー産業視察報告(2016年11月、台北・台南・高雄) その2 から続く

台湾視察を終えて(2016年11月 台湾ビジネス視察団 団長所感)

大阪商工会議所中国ビジネス特別委員会委員長

 桑山信雄

 大阪商工会議所の台湾ビジネス視察団で2016年11月15日から18日まで訪台した。今回の訪台の目的は、台湾三三企業交流会とのMOU締結後の事業第一弾として、日台がともに直面する高齢化への対応をはかるため、シルバー産業に関する最新状況を視察することにあり、台北、台南、高雄の3都市を訪問した。

以下、所感を述べたい。

<見学先企業・施設等について>

台北で訪問した医療・介護機器メーカー「Apex Medical社」は、他社製品のOEMからスタートし、現在では自社ブランドが8割を占めるまでに成長しているとのことだった。印象的だったのは、社内に若い社員中心の研究開発センターを設け、特許申請を社員に奨励するなど、創業者でもある董事長が他社との差別化に非常に意欲的だったことだ。「台湾企業が生き残る道は、研究開発を通じた差別化しかない」という董事長の言葉に、アジアや欧米マーケットで健闘する同社の意気込みを感じたと同時に、今後、同社と連携した第三国での市場開拓に期待が持てた。

キリスト教系非営利団体が運営する大規模介護施設「双連安養中心」では、認知症ケア施設に日本型の「ユニットケア」を導入したり、日本の介護施設をスタッフらが見学した際に見聞きした点を自らの施設整備・運営に活かしていたりと、日本式介護への理解と評価が感じられた。何より驚いたのは、ベッド数432に対して、スタッフが200人も在籍していることだ。台湾の法定基準の1.6倍にも上るスタッフを採算度外視で雇用できるのは、運営主体が企業ではなく、信者からの寄付に支えられたキリスト教系の福祉団体だからこそだと感じた。

大手デベロッパーが運営する高級シニアマンション「潤福生活新象」は、設立時に日本の介護施設運営事業者に企画設計を依頼し、その後もコンサル契約を15年間にわたって締結するなど、日本式介護への信頼が厚い様子がうかがえた。また、台湾では、高齢者を施設に預けることへの心理的抵抗が依然として根強いため、入居者本人や親族の心情に配慮して、3世代での食事会など、入居者と親族とのコミュニケーション機会を施設側が意識的に設けている点が印象的だった。さらに、同施設では自立が入居の条件だが、入居者が時間の経過とともに要介護や認知症になるケースもあり、自費でヘルパーを雇用してもらって看取りまで対応している、という話を聞き、過去に中国で見学した、自立者向け高級老人ホームの課題を先取りしているように感じた。施設の設立から20年の運営経験を積んできた事業者ならではの課題と、それに対する現実的な対応方法を聞けたことは、同施設訪問で得た貴重な収穫である。

台南で大手メーカーが運営する、オープン間近の介護施設「悠然緑園」は、デザイン事務所を彷彿とさせる洗練された内装と、台南市政府から運営を委託されている「公設民営」スタイルが特徴的だった。また、当日ブリーフィングを受けた担当者の「中国大陸の介護施設は立派なものが多いが、医療との連携など制度や仕組みが未整備でリスクが多いため、現時点では大陸への進出は検討していない」という言葉が印象的だった。同施設では、中国の介護施設からの研修を受け入れているそうで、ここでも中国との違いを垣間見た思いだった。さらに、台湾全土で約1400施設ある介護施設のうち、1200施設が50床以下なので、一施設での大規模投資や、高額な機器の購入等は少ない、という話も、台湾進出を検討する日本企業に大いに参考となると感じた。

 今回見学した施設は、それぞれハード・ソフトともに充実しており、台北の施設は高い入居率を誇っているものの、いずれも設立母体が損失を補填する形で運営されており、ビジネスとしては成り立っていなかった。台湾で民間企業、しかも外資企業が介護施設を運営する際には、さらに慎重な情報収集が必要であると感じた。

 最終日に高雄で視察した展示会「Elder Care Asia」には、約80社が出展しており、アプリと連動したセンサーを内蔵する介護ベッドを手がける台湾メーカーや、日本の介護機器を輸入販売する台湾商社等のブースが特徴的だったが、日本からの出展はほとんどなく、また展示会そのものの規模もそれほど大きくはなかったため、今後業界全体の一層の発展に期待したい。裏を返せば、競合が比較的少ない今が、日本企業にとって現地市場に食い込むチャンスと言えるかもしれない。

<シルバー産業における日台連携の可能性について>

 本視察団の行程の中で最も印象深かったのが、3月に大阪商工会議所と業務協力覚書(MOU)を締結した台湾の経済団体「台湾三三企業交流会」(三三会)との意見交換会である。

 三三会の鄭世松顧問からは「台湾の高齢化のスピードは日本の1.6倍。医療・介護は今後、日台連携の代表的な分野となりうるので、日台で協力して中国・アセアンへ展開するビジネスモデルを提案したい」と力強い言葉をいただいた。

 当日ブリーフィングをいただいた台湾医療・生技機材工業同業公会の黄啓宗理事長からは、台湾では介護ロボットやスマートハウスなど、ICTの活用を推進している一方、政府による法整備は不十分で、介護は福祉分野で扱われることが多く、産業としては未成熟との紹介があった。

 黄理事長の指摘通り、本視察団で見学した介護施設も、その多くがビジネスとしては成り立っておらず、台湾での介護施設運営には政策的な支援が必要であると感じた。

 さらに、台湾ではインドネシアやベトナムからの外国人ヘルパーによる在宅介護が一般的で、介護施設に入所するのは10~15%に留まっているという点も、今後の台湾進出を検討するうえで重要である。加えて、現状では規制により、介護サービスの提供には財団法人など非営利団体の設立が必要で、民間資本の参入については、ベッド数49床以下の小規模なものに限定されている。

 こうした事情を踏まえると、台湾では当面は介護施設の運営や人材育成事業よりも、介護機器・福祉用品の輸出・販売や、コンサル・技術供与等の周辺事業での参画が現実的と考えられる。

 三三会との意見交換会でも、介護食を取り扱う団員企業への台湾側の関心が高かった。帰国後、早速台湾への輸出可能性について検討が進んでいると聞いており、本視察団の成果として大いに期待を寄せているところである。

 中国ビジネス特別委員会としても、三三会との継続的な交流等を通じて、今後の具体的な日台連携につながるネットワークをさらに拡大し、日本企業の台湾進出を引き続き支援していきたい。

(了)

*役職、内容ともに視察団派遣当時のものです。ご了承ください。

投稿者 panda | 2018年3月 6日 15:38


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