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I.各国の概況・経済指標

1.概況

(2002年)
表-1 日米EUの経済規模
  名目GDP(10億ユーロ) 人口(億人) 一人当たりGDP(ユーロ)
EU(15ヶ国)
9.162
3.79
24,174
新加盟国(10ヶ国)
438
0.74
5,919
拡大EU(25ヶ国)
9,600
4.53
21,921
米国
10,979
2.89
37,990
日本
4,240
1.27
33,386
注)2002年平均では、1ユーロ=0.9411ドルであった。
出所)欧州委員会資料

 表-1は、拡大前のEU、拡大後のEUについて、その経済規模を日米と比較したものである。この表から分かるように、拡大EUのGDPは9.6兆ユーロと米国にほぼ匹敵する経済規模を有している。なお、このデータは2002年現在のものであり、その後、ドル安・ユーロ高が進行している点を考慮すると、至近時点では、拡大EUの経済規模は米国を上回っていると推測される。また、人口面をみると、拡大EUは4.53億人に達しており、日米の合計よりも大きい。

表-2 新たにEUに加盟する10ヶ国の経済情勢 (単位:%)
 
2001
2002
2003
2004
2005
経済成長率
2.4
2.3
3.1
3.8
4.2
インフレ率
5.1
2.5
2.4
3.5
3.1
失業率
14.5
14.8
15.1
15.2
14.8
財政収支*
-3.7
-5.2
-5.0
-5.0
-4.1
経常収支*
-4.3
-3.9
-4.6
-4.9
-4.8
* 財政収支および経常収支はGDPに対する比率
出所)European Commission, Economic Forecasts for the candidate countries Autumn 2003

 さらに注目される点は、加盟が予定されている10ヶ国の経済成長率である。表-2のように、これら諸国の経済成長率は、2001年および2002年の2%台から次第に上昇し、2005年には4%台に達すると見込まれている。また、体制移行時点で問題となったインフレも次第に鎮静化するようになっており、至近時点でのインフレ率は3%前後といった水準にまで低下している。
 なお、通貨面であるが、新規加盟国は通貨統合の参加基準(例えば、財政赤字/GDP比率は3%以下)を満たしている限り、ユーロ導入が義務付けられている。ただ、現実には、表-2でみられるように、多くの国は同基準を満たしていないため、EU加盟後、直ちにユーロを導入することは困難である。なお、これら諸国通貨のなかには、ユーロにぺッグする通貨体制を採用するなど、ユーロと安定的な関係を維持している通貨もある。
 従って、全体としてみると、これら10ヶ国は体制移行を順調に終え、次第に経済発展の基礎を固めつつあるといえるであろう。勿論、これら諸国はいくつかの課題を抱えていることも事実である。とりわけ注目されるのは、「双子の赤字」である。上記の予測期間を通じ、新たに加盟する10ヶ国平均でみて財政赤字/GDP比率は概ね5%近い水準が続くと見込まれている。例えば、ハンガリーの同比率は9.2%、スロバキアは7.7%などである(いずれも2002年)。貯蓄率が十分には高くないため、このような財政赤字は容易に経常収支の赤字をもたらす。事実、表-2によれば、10ヶ国平均の経常収支赤字/GDP比率は5%弱という水準が続くと予測されている。
 このような大幅な経常赤字は外資の流入によってファイナンスされているため、これまでのところ、各国の為替レートは比較的安定している。ただ、海外資金の動向によっては、経常赤字が十分にファイナンスされない可能性もあり、その場合、各国通貨の為替レートが下落し、インフレ再燃が発生するということも考えられない訳ではない。
 また、失業率が15%前後という高い水準にあることも重要である。これら諸国が外資誘致によって経常収支のファイナンスと雇用増を図ろうとしている背景である。
 なお、ここでブルガリアとルーマニアの加盟が遅れた背景について、若干、触れておきたい。中東欧諸国のEU加盟申請が相次いだため、1993年6月、EUは加盟受け入れの条件を設定した。「コペンハーゲン基準」と称される条件である。その内容は、

(1) 政治的基準・・・民主主義体制が確立し、人権が尊重されているか。
(2) 経済的基準・・・市場経済体制が確立し、市場の競争圧力に耐えられるか。
(3) その他基準・・・31分野に及ぶアキ・コミュノテールを受け入れることが可能か。

から構成される。これら条件のうち、難航したのはアキ・コミュノテールに関するものであった。一例をあげると、EUの環境基準を導入できるかどうか、あるいはEUの競争政策を適用できるかどうかといった点である。今回加盟が予定されている諸国はすべてこれら項目を満たすことができた。これに対して、ブルガリアおよびルーマニアは31分野のうち、それぞれ26および22項目を満たしただけであった(2003年12月時点)。このため今回の加盟は見送られたのであるが、残された問題は多くない。従って、両国の加盟は時間の問題ともいえるのであり、2007年までにはすべて条件をクリアし、両国ともEU加盟国となる見込みである。

2.各国の経済状況

(1)チェコ共和国
(2)ハンガリー共和国
(3)ポーランド共和国
(4)スロバキア共和国
(5)スロベニア共和国
(6)ブルガリア共和国
(7)ルーマニア共和国

(1)チェコ共和国
1-概況
 1918年、チェコ・スロバキアとして独立したが、その際、オーストリア・ハンガリー帝国の工業資産の約75%を受け継いだことから、有数の工業国として知られることになる。第2次大戦後は社会主義国となるが、68年の「プラハの春」などを経て、89年からは、いわゆる「ビロード革命」により、政治的には議会制民主主義国、経済的には市場経済化への移行を図るようになる。また、93年にはスロバキアとの連邦を解消し、チェコ共和国となった。
2-最近の経済情勢 − 回復しつつあるバランス
 大洪水・コルナの上昇・主要輸出先であるEU経済の低迷などにより、2002年の経済成長率は2.0%にとどまった。今後、輸出の伸び悩み・財政再建措置の実施といった要因は続こうが、個人消費は増加を続けるため、2〜3%程度の緩やかな成長を続けるとみられる。
 一方、物価面では、市場経済体制の下で初めてというデフレ懸念に見舞われている。すなわち、域外国、とりわけ貿易関係が密接なドイツにおけるデフレ、さらにはコルナの上昇により、2003年の消費者物価上昇率はゼロになったと推測される。2004年以降の物価上昇率はプラスとなろうが、これは間接税の引き上げによるものであり、実質的には物価は横ばいが続き、製品価格の引き上げは容易でないとみられる。
 プラスの成長率を維持したとしても、公的部門でのリストラが進行するため、今後、失業率は緩やかに上昇する可能性が強い。すなわち、2002年に7.3%にまで低下した失業率は、2004年には再び8%台に戻るであろう。他の中東欧諸国に比較すると低率であるとはいえ、労働市場が同国経済の問題点として残ることは間違いない。なお、財政面では、再建策が効果をあげ、次第に財政赤字/GDP比率は低下に向かうとみられる。
 全体としてみると、対外環境悪化・労働市場の悪化にもかかわらず、比較的底固い推移を続け、財政赤字面でも改善がみられるなど、バランスを回復しつつあるといえる。
表-3 チェコの経済情勢 (単位:%)
 
1995-99
2000
2001
2002
2003
2004
2005
経済成長率
1.7
3.3
3.1
2
2.2
2.6
3.3
失業率
5.5
8.7
8
7.3
7.8
8.1
8
賃金上昇率
11.6
6.4
7.3
6.5
6.5
6.3
6.3
インフレ率  
3.9
4.5
1.4
0
3.3
2.6
経常収支
-4.5
-5.3
-6.2
-5.3
-6.6
-6.9
-6.6
財政収支
-5
-4
-5.8
-7.1
-8
-6.3
-5.2
公的債務

16.6
23.3
27.1
30.7
34.5
38.3
注)2003年以降は欧州委員会による予測値。なお、経常収支・財政収支・公的債務はGDPに対する比率。
出所)欧州委員会, “European Economy各号

(2)ハンガリー共和国
1-概況
 紀元前1世紀頃より侵入したアジア系のフン族が定住して形成された国であり、その言語マジャール語はウラル・アルタイ語系に属する。第2次大戦後は社会主義圏に組み込まれたが、「ハンガリー動乱」などを経ながら、社会主義国であっても漸進的に市場経済メカニズムを導入しようとした国としても知られている。「ベルリンの壁」崩壊以降は、一層の民主主義化・市場経済化を進めてきた。 
2-最近の経済情勢 − 課題は財政・経常収支の改善
 2002年および2003年と概ね3%前後という成長率を維持した。貿易相手地域であるEU諸国の経済が低迷したにもかかわらず、比較的底固い成長率を維持できたのは、財政面からの刺激策があったからである。ただ、このことにより同国の財政および経常収支は再び悪化に転じた。因みに、2002年の財政赤字/GDP比率は9.2%にも達している。また、経常収支/GDP比率も2003年には6.2%という水準にある。なお、このような経常収支の悪化を反映して、同国通貨フォリントも大幅な変動に見舞われている。
 一方、これまで低下を続けてきたインフレ率であるが、概ね横ばい、ないしは若干の加速という圏内に入ったとみられる。フォリントの減価、間接税の引き上げ、さらには規制緩和などによる価格上昇などが主因である。このため、2004年の消費者物価上昇率は6.1%と2003年の実績見込み4.6%を上回るであろう。
 熟練労働者あるいは工業地域における労働市場は逼迫しているが、失業率は概ね6%前後という比較的高い水準が続くとみられる。こうした労働市場における需給を反映して、かつて高いレベルが続いていた賃金上昇率は、今後は次第に緩やかなものとなろう。
 同国政府は財政赤字/GDP比率を5%以下に抑え込むべく財政再建策を実施しているが、果たしてこの目標が達成できるか否かが同国経済のポイントとなるであろう。
表-4 ハンガリーの経済情勢 (単位:%)
 
1995-99
2000
2001
2002
2003
2004
2005
経済成長率
3.3
5.2
3.8
3.3
2.9
3.2
3.4
失業率
8.8
6.3
5.6
5.6
5.6
5.6
5.5
賃金上昇率
16.1
15.8
15.8
17.7
12
8
6.7
インフレ率  
10
9.1
5.2
4.6
6.1
4.1
経常収支      
-4
-6.2
-6.1
-5.8
財政収支  
-3
-4.2
-9.2
-5.4
-4.4
-3.6
公的債務

55.5
53.4
56.3
57.9
56.9
55.5
注)2003年以降は欧州委員会による予測値。なお、経常収支・財政収支・公的債務はGDPに対する比率。
出所)欧州委員会, “European Economy各号

(3)ポーランド共和国
1-概況
 10世紀に建国された大国であるが、ロシア・ドイツに挟まれていることもあって、消滅・分断の悲哀を味わってきた。第二次大戦後は社会主義政権の下にあったが、1980年代初期の「連帯」など自由化運動が活発化し、東欧諸国のなかでは最も早期に社会主義からの離脱に成功した。
  現在、中東欧諸国のなかでは、人口・経済力の面で最大の規模を有している国である。なお、多数のポーランド人がアメリカに移住したため、アメリカとの関係は緊密である。
2-最近の経済情勢 − 高まる経済成長率
 2001年、2002年と1%台の低成長が続いた同国経済であるが、ズローチの減価を主因とする輸出増、さらには金融緩和による設備投資増、インフレの鎮静化を背景とした個人消費増が牽引役となり、成長率が加速する見込みである。さらに、財政面からの刺激も、こうした成長率の高まりに効果をあげている。欧州委員会によると、2005年の成長率は4.8%に達するとされている。
  ただ、課題は労働市場にある。上記のような経済成長の加速が実現したとしても、人口増加、農業・鉄鋼部門におけるリストラの進展などにより、失業率は20%前後という極めて高い水準が続く見込みである。インフレが鎮静化しつつあることもあって、賃金上昇率も次第に低下し、4%前後という緩やかなものにとどまるであろう。
  同国経済が抱える課題の一つとされてきた経常赤字は、輸出の増加、EUからの援助増などによって悪化に歯止めがかかった。因みに、経常赤字/GDP比率は、当面、3%台という水準にとどまるとみられており、このレベルであれば資本流入によってファイナンス可能であろう。なお、財政赤字/GDP比率は、歳出増、税率引き下げなどにより再び拡大する見込みである。
表-5 ポーランドの経済情勢 (単位:%)
 
1995-99
2000
2001
2002
2003
2004
2005
経済成長率
5.7
4
1
1.4
3.3
4.2
4.8
失業率
12
16.4
18.5
19.9
20.6
20.9
20.3
賃金上昇率
22.2
13.3
13.3
4.7
3.2
3.4
4.9
インフレ率  
10.1
5.3
1.9
0.7
1.9
2.7
経常収支
-5
-7.5
-4.2
-2.8
-4.9
-5.3
-5.7
財政収支
-2.5
-2.5
-3.1
-3.9
-4.3
-5.9
-4.9
公的債務  
37.2
37.2
41.6
45.1
49.2
51.5
注)2003年以降は欧州委員会による予測値。なお、経常収支・財政収支・公的債務はGDPに対する比率。
出所)欧州委員会, “European Economy各号

(4)スロバキア共和国
1-概況
 10世紀、スラブ人国家であった大モラヴィア帝国が滅亡し、この地域はハンガリー帝国の支配下に入った。ただ、第一次世界大戦の終了とともに、1918年、チェコとともにチェコ・スロバキアとして独立を果たした。第二次大戦後は社会主義圏に組み込まれたが、1989年に「ベルリンの壁」が崩壊し、さらには1993年にチェコとの連邦を解消して独立国となり、今日に至っている。
2-最近の経済情勢 − 続く高失業率
 財政再建のため増税・歳出削減が行われているにもかかわらず、個人消費の拡大と輸出の増加を主因に、2002年および2003年の経済成長率は4%前後を維持した。このような傾向は今後も続くとみられており、2005年にかけ4%成長が持続する見込みである。
  一方、物価面であるが、鎮静化が続き2002年の消費者物価上昇率は3.3%にまで低下した。ただ、2003年から価格統制の撤廃、間接税率の引き上げが実施されているためインフレは再燃加速しており、2004年の消費者物価上昇率は8%に達する見込みである。
  最も深刻な問題は高失業率であり、高い経済成長を続けているにもかかわらず、17%前後という失業率の引き下げは困難である。一方、賃金上昇率については、概ね上記した消費者物価上昇率にスライドした状況が続くとみられる。
  経常収支は依然として赤字が続くが、その対GDP比率は2001年の7.4%から縮小し、今後も輸出増が期待できるため、概ね4%前後で推移するであろう。また、財政赤字についても、個別消費税率の引き上げなど増収措置が実施されることから、次第に低下し、対GDP比率5%以下という政府の目標は達成できるとみられる。
表-6 スロバキアの経済情勢 (単位:%)
 
1995-99
2000
2001
2002
2003
2004
2005
経済成長率
4.6
2.2
3.3
4.4
3.8
4.1
4.3
失業率
13.2
18.7
19.4
18.6
17.7
17.1
16.5
賃金上昇率
11.4
12.3
5.8
9.8
7.5
8.1
6.1
インフレ率  
12.2
7
3.3
8.5
8.2
5
経常収支
-5.4
-2.5
-7.4
 
-3.8
-4.4
-4.4
財政収支
-5.5
-13.5
-7.2
-7.2
-5.1
-4
-3.4
公的債務  
46.9
48.8
44.3
45.1
45.2
45.4
注)2003年以降は欧州委員会による予測値。なお、経常収支・財政収支・公的債務はGDPに対する比率。
出所)欧州委員会, “European Economy各号

(5)スロベニア共和国
1-概況
 旧ユーゴ連邦を構成していた共和国の一つである。6世紀頃からスラブ系であるスロベニア人がこの地域に定住するようになり、ハプスブルグ家の支配などを経て、20世紀初めにはユーゴ王国の一部になった。第二次大戦後は、旧ユーゴに属したが、1991年6月、独立を宣言、その後、旧ユーゴ軍との武力衝突などを経て、次第に多くの国によって承認されるようになった。この間、同国は民主化および市場体制への移行を進めてきた。
2-最近の経済情勢 − 底固い成長
 同国のマクロ経済パフォーマンスは良好であり、バランスがとれている。体制移行以来、経済成長率は概ね3〜4%という水準で安定的に推移している。その主因は内需、とりわけ設備投資増である。また、輸出も、ロシアおよびバルカン諸国向けを中心に増加が続いている。2003年の成長率は2.1%と同国としては低水準に落ち込んだが、2004年以降、投資と輸出を牽引役として、2004年には再び3%台に乗ると見込まれている。
  問題は物価面にある。すなわち、低下しつつあるとはいえ、2002年の消費者物価上昇率は7.5%と比較的高い水準にあるからである。その主因は、同国通貨トラールの減価、個別消費税の引き上げなどである。ただ、物価上昇を考慮した実質賃金の上昇率を生産性上昇率の枠内にとどめるという政策は次第に効果をあげつつあり、物価問題の深刻さも次第に軽減されるであろう。また、もう一つの問題である高失業率も、経済成長率の加速を受けて次第に低下しつつある。
  同国は、中東欧のなかでも例外的に経常収支が黒字となっている。また、財政赤字も概ね2%程度に収まっている。比較的均衡のとれたマクロ経済パフォーマンスを実現している国であると評価できよう。
表-7 スロベニアの経済情勢 (単位:%)
 
1995-99
2000
2001
2002
2003
2004
2005
経済成長率
4.4
4.1
2.9
2.9
2.1
3.1
3.7
失業率
7.1
6.6
5.8
6
6.4
6.1
6
賃金上昇率  
15.1
11.6
10.5
7.6
7
6.5
インフレ率  
8.9
8.6
7.5
5.9
5.2
4.3
経常収支
-0.8
-2.8
0.1
1.7
0.5
0.3
0.1
財政収支  
-3.1
-1.3
-2.3
-2.2
-1.8
-1.7
公的債務  
26.4
25.9
27
27.4
27
26.4
注)2003年以降は欧州委員会による予測値。なお、経常収支・財政収支・公的債務はGDPに対する比率。
出所)欧州委員会, “European Economy各号

(6)ブルガリア共和国
1-概況
 ブルガリア民族は、19世紀後半に至るまで約500年間にわたってトルコの支配下にあった。露土戦争の結果、トルコからの独立を果たしたが、第二次大戦後、社会主義政権が成立した。1989年の「ベルリンの壁」崩壊から民主化・市場経済化が始まり、今日に至っている。ただ、そのプロセスでバルカン半島危機、さらには不安定な政権、さらには社会主義時代にコメコン市場に対する余りにも高い依存度といった要因が働き、他の中東欧諸国に比較すると改革は遅れ気味であった。
2-最近の経済情勢 − 急速に続く他の中東欧諸国へのキャッチ・アップ
 上記のように改革が遅れた同国であるが、2000年以降、経済成長率は4〜5%といった高水準を維持しており、他国との所得格差も縮小しつつある。個人消費と設備投資増が主因である。今後も、5%台という高い成長は持続するとみられる。インフレ率も、概ね2〜4%という低率にとどまる見込みであり、この点からも個人消費を支えている。
  失業率はかつての20%近い水準から次第に低下しつつあるが、それでも依然として2桁という水準である。一方、このような失業率にもかかわらず、大幅な賃金上昇率が続いている。従って、労働市場の改革が今後の政策運営の課題であろう。
  対外面では、輸出の増加が期待できるものの輸入も増加するとみられるため、経常収支の赤字は拡大する可能性が強い。なお、財政収支であるが、社会保険料の引き下げ、付加価値税率の引き下げなどによって、対GDP比率は若干上昇しよう。
表-8 ブルガリアの経済情勢 (単位:%)
 
1995-99
2000
2001
2002
2003
2004
2005
経済成長率
-1.3
5.4
4.1
4.8
4.5
5
5.5
失業率
10.8
16.4
19.2
18.1
15.3
13.8
12.3
賃金上昇率
 
10.2
12.3
8.2
8.1
7.8
10.2
インフレ率
       
2
3.5
4
経常収支  
-0.8
-5.5
-6.1
-4.7
-6.2
-5.9
財政収支  
-0.5
0.2
-0.7
0
-0.7
-1
公的債務  
73.6
66.2
53.2
50.8
48.6
46.6
注)2003年以降は欧州委員会による予測値。なお、経常収支・財政収支・公的債務はGDPに対する比率。
出所)欧州委員会, “European Economy各号

(7)ルーマニア共和国
1-概況
 資源に恵まれた同国は、中東欧で唯一のラテン系民族であるルーマニア人が居住している。紀元2世紀よりローマ帝国、また、15世紀以降19世紀後半まではトルコが支配していた。さらに、第二次大戦後は社会主義政権が成立、チャウシェスク大統領の独裁政権の下にあった。ただ、1989年末に同政権が崩壊して以来、民主化・市場経済化が図られ今日に至っている。
2-最近の経済情勢 − 高い成長率と拡大する経常赤字
 2001年以来、同国の経済成長率は5%前後という高水準を維持している。個人消費・設備投資といった内需が増加を続けているからである。なお、輸出も好調であるが、輸入も増加しており、純輸出が成長率に寄与してきたとはいえない。今後についても、失業率が安定していること、さらにはインフレ率の低下が実質所得に影響することなどから、個人消費主導で5%という高い経済成長率を維持する見込みである。
  同国が抱える課題の一つは依然として2桁の上昇率が続くインフレである。為替レートの切り下げを緩やかなものにとどめるなど、同国中央銀行の政策が効果をあげれば、インフレ率は2005年には1桁にまで低下するであろう。他の課題は経常収支の赤字である。輸入の増加率が輸出を上回るという状況は、今後も続くとみられ、経常赤字の対GDP比率は次第に高まり、2005年には5%を上回ると見込まれている。
表-9 ルーマニアの経済情勢 (単位:%)
 
1995-99
2000
2001
2002
2003
2004
2005
経済成長率
-0.3
2.1
5.7
4.9
4.6
4.9
5.1
失業率
5.2
6.8
6.6
7
6.5
6.3
6.3
賃金上昇率
73
74.9
-0.5
6
     
インフレ率
       
15.3
11.5
8.5
経常収支
-5.5
-4.1
-5.8
-3.5
-4.8
-5.1
-5.5
財政収支  
-4.6
-3.3
-2.6
-2.7
-3
-3
公的債務  
23.9
23.1
22.7
21.5
21.4
21.6
注)2003年以降は欧州委員会による予測値。なお、経常収支・財政収支・公的債務はGDPに対する比率。
出所)欧州委員会, “European Economy各号



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