夜の大阪 観光情報 体験レポート

天神祭

日本の夏は海に行き、スイカや素麺を食べ、なにより祭を楽しむ季節です。実際、大きくて有名な祭が6月末から8月上旬にいくつか開催されます。大阪にも大きな祭があります。大阪で最も大きく、日本三大祭の1つである天神祭は、毎年7月24日~25日に開催されます。今年、私はこの有名な天神祭の「船渡御(ふなとぎょ)」と呼ばれるイベントに、特別にご招待いただき、参加することができました。
はじめに天神祭についてご紹介します。この祭には1000年以上の歴史があり、諸説ありますが、「天神様」とも呼ばれる、有名な菅原道真公を祀るための祭だといわれています。祭は7月の2日間行われます。1日目の早朝に大阪天満宮で始まり、その日は終日続きます。2日目に「陸渡御(りくとぎょ)」と呼ばれる陸上での行列が行われ、続いて水上での「船渡御(ふなとぎょ)」が行われます。陸渡御では3000人もの人々が大阪天満宮から大川の天神橋まで行列します。続いて船渡御が行われ、天神橋から飛翔橋まで川を下ります。飛翔橋で御神体を乗せた船は大川で天神橋まで運ばれ、船団に迎えられます。川の流れはゆるやかで、川の左側を上る奉拝船と、川の右側を下る天満宮の行列が、天神橋と飛翔橋の間に円を描きます。このようにして、だれもが船渡御に参列するすべての船を眺めることができるようになっています。
渡御の日、私は飛翔橋近くに他の船とともに係留してある一隻の船に乗り込み、船渡御が開始されるのを待ちました。天神祭を見るのは初めてのことで、これから何がおこるのか全くわかりません。期待で胸がふくらみます。いよいよ始まるというと知らせを受けて、私の乗る船が最初に動きはじめました。次第に岸から離れ、船団が上流に動き始めます。船が動き始めると、司会者が挨拶をすませてから、乗客に「なにわなんでも大阪検定」で出題されたテストを行いました。「なにわなんでも大阪検定」とは、大阪の歴史や文化についての知識を問い、認定する試験です。第1問目は、司会者が橋の両側にある2つの竹でつくられた囲いを指して、「あれは何でしょう?」と尋ねました。皆さんはご存知ですか?あの囲いは橋の上の見物人がご神体を運ぶ船を上から見降ろさないように、橋の両側に設けたもので、船はその下を通るようになっているのだそうです。
川を下るに従い、川の高速道路のようであった景色が変わってきました。荷船や川の中央を進む火の船があらわれ、船列は川の両岸を進むようになります。川の中央には、小さな救命船が猛スピードで走るスペースもできました。舞台船では踊りや能が上演されていました。神輿を乗せた船にも出会いました。こういった船の乗客は厳粛で、川を下りながら神輿にお祈りをしていました。神輿の前には、「御迎え人形」という神様をお迎えするための人形を乗せた船がありました。この人形は陸で展示された後、神輿を先導する船に乗せられます。特別につくられた人形で、一体100万円以上するそうです。他にも落語や文楽の船も見ました。文楽船では先頭に乗せられた神官の衣装を着た人形が、船の進行にあわせて鐘を鳴らしていました。私は人形を見て微笑み、鐘の音に耳をすませました。私が一番気に入ったのはどんどこ船です。突然現れたのですが、ちゃんと見ることができました。この船は棹をもった40人の少年達が動かしています。どうやって漕ぐのか見ていたら、難しくて、疲れそうなのに、決してリズムを崩さず、スムーズに川を下っていました。
他の船とすれ違う時、司会者はお互いに話しかけ、ときには自己紹介を行います。船の間で行われるこのようなコミュニケーションは私にとって珍しく、どんな船とすれ違うのか、好奇心をもって見たり、聞いたりしている乗客達を眺めて楽しんでいました。司会者は船だけでなく、岸壁や橋、マンション、ビル、レストランで祭を見物している人達にも話しかけます。「そちらの皆様、どうも(こんにちは)。」「橋の上の皆様、どうも。」「大丈夫ですか?(お酒を飲んで)顔が赤いですよ。どうもどうも。」

船同士で行われる行動で、最もおもしろかったのは大阪独特のリズムで手拍子する大阪締めです。他の船を誘ったり、岸辺で見物している人達を誘ったりして、何度も大阪締めを行って、手を打ちました。船がすれ違うときには、大概どちらかの船の司会者が大阪締めを呼びかけます。返事があると、次のように行われます。

司会者:「う~ちましょ。」
乗客:ちょん、ちょんというリズムで2回手を打ちます
司会者:「もひとつせ。」
乗客:ちょん、ちょんというリズムで2回手を打ちます。
司会者:「いおうてさんど。」(祝うて三度)
乗客:「ちょん、ちょん(が)ちょん」というリズムで、2回手を打った後、もう1回手を打ちます。

3回目の部分が他と違うリズムで難しいので、私はいつも頭の中で「ちょん、ちょん(が)ちょん」と言いながら手を打っていました。

暗くなり始めると、川岸の2~3か所から花火が打ち上げられ始めました。最初は通り過ぎる船を驚かせるために花火があがっているのかと思いましたが、前からも後ろからも次々と打ち上げられ、美しい火花が散りました。最後に船はヒューヒューと音が鳴り、爆発するロケット花火の真下を通りました。金色や銅色に輝く、紫や緑色の大輪の花火がゴールに向かう私たちの船の上に降り注ぎました。

最後に飛翔橋近くで炎が燃える篝講船のそばを通り過ぎると、船が出発したもとの場所にゆっくりとつながれました。船団に参加して、船上で歌や踊り、楽器が演奏されている船を眺めていても、私は高揚し、興奮した気分にはなりませんでした。実際、船列を眺めながら川を上り下りしているうちに、とても厳粛で静かな気持ちになりました。そう感じる自分に驚きつつ、むしろ自然なことだと思いました。船渡御に参加する船に乗ることで、このような興味深い観点から祭を眺めることができたのだと思いますし、このような経験を得られたことにとても感謝しています。船からでも陸からでもこの祭りを見るときには、このような観点から見ることをお勧めします。

来年はぜひ大阪天満宮で天神祭を見て、できればもう1度船渡御に参加したいと思います。来年の天神祭で皆さまとお会いできますように。

(ハルコ・ローズ)