今年4月から働き方改革関連法が順次施行され、大企業だけでなく中小企業にも一部適用が始まった。大阪商工会議所が企画・実施する「メンタルヘルス・マネジメント検定試験」の検定委員も務める山田長伸弁護士は、「メンタルヘルス対策の観点から働き方改革や健康経営を進めるには、経営者や人事担当者だけでなくすべての社員が、検定の受験を通じてメンタルヘルスについての知識を持つことが有効である」と話した。
◆検定委員 山田長伸さんに聞く ―働き方改革関連法が順次施行 健康経営の推進に
――今年4月から「働き方改革関連法」が順次施行されています。 「働き方改革関連法は、2017年3月に策定された『働き方改革実行計画』を受け、労働基準法、労働安全衛生法、労働者派遣法、パート労働法などの8つの法律の改正を内容とするものをいう。@働く人が健康を確保しながらワーク・ライフ・バランスを図り、能力を有効に発揮できるための労働時間制度の見直しA雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保(いわゆる同一労働同一賃金の実現)を目指している」 ――企業のメンタルヘルス対策に関連して具体的に盛り込まれた内容は。 「労働時間の見直しについては、年に10日以上の年次有給休暇が付与された労働者に対して、うち5日は使用者が時季を指定して取得させなければならないとされたほか、時間外労働の上限は原則、月45時間、年360時間で、臨時的な特別の事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働を含む)、複数月平均80時間(同)となった。精神障害に関する労災認定基準では『1カ月に80時間以上の時間外労働を行ったこと』などが発症リスクとして問題とされていることからも、長時間労働の上限規制はその発症リスクを低減させることを意味している」 「また、ストレス対策として現在、注目されているものに、仕事に関してポジティブで充実した心理状態を指すワーク・エンゲイジメントがある。雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保はワーク・エンゲイジメントの向上につながり、ストレス対策の一環として、健康リスクの低減につながる」 ――「健康経営」との関係は。 「健康経営は労働者の健康にかかる取り組みをコストではなく、企業が成長するための投資としてとらえ、経営上の重要課題として位置づける考え方である。健康経営は働き方改革関連法と同様、労働者が心身ともに健康で意欲を持って働き、労働生産性の向上につなげることを目指している。その点で、働き方改革関連法の順守は健康経営の推進と軌を一にするものといえる」 ――今回の法改正は企業にどんな影響をもたらしますか。 「長時間労働の上限規制に違反した場合は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則が予定されている。また、年次有給休暇の確実な取得についても違反すると30万円以下の罰金という罰則が予定されている。ただし、中小企業には長時間労働の上限規制は20年4月まで適用が猶予されている」 ――企業側からのメンタルヘルスに関する相談や係争につながる案件は増えていますか。 「厚生労働省が毎年公表している『個別労働紛争解決制度の施行状況』が示しているとおり、職場でのいじめ・嫌がらせに関する相談、紛争案件が増加の一途をたどっている。特に、パワハラを理由にメンタルヘルス不調に陥ったり、休職に至った事案が数多くみられる」 ――大阪商工会議所の「メンタルヘルス・マネジメント検定試験」の活用については。 「企業が働き方改革関連法の順守や健康経営を進めていくには、経営者、人事担当者、管理監督者、社員のそれぞれが自らの役割を正しく認識し、行動することが求められる。メンタルヘルス対策の観点から、経営者や人事担当者が率先してこうした取り組みを実践するには、検定の1種の受験に取り組むことは有効な手段の一つだ。セルフケアやラインケアも必要不可欠であり、すべての社員に3種や2種の受験を通じて必要な知識を身につけていただきたい」
やまだ・ひさのぶ 1975年神戸大学法学部卒業後、77年神戸大学大学院博士前期課程修了。87年山田長伸法律事務所(現・山田総合法律事務所)開設。2015年から関西圏雇用労働相談センター運営協議会会長。NPO法人健康経営研究会副理事長。メンタルヘルス・マネジメント検定委員。67歳。
◆申込者数は累計40万人突破 仕事や職業生活に強い不安や悩み、ストレスを抱える人は増加傾向にあり、心の不調による休職や離職も増加するなか、働く人たちが仕事や職場で活躍するためには、心の健康管理(メンタルヘルス・マネジメント)への取り組みが一層重要になっている。 心の健康管理には、一人ひとりが自らの役割を理解し、ストレスやその原因となる問題に対処していくことが大切。また、雇用する企業としても、社員のメンタルヘルスケアについて組織的かつ計画的に取り組む必要がある。 こうしたなか、メンタルヘルス・マネジメント検定試験の申込者数は2018年度で累計40万人を突破した。



<各コースの内容>
メンタルヘルス・マネジメント検定試験は、職位・職種別(対象別)に3つのコースを設定している。
コース |
対 象 |
目 的 |
T種(マスターコース) |
人事労務管理スタッフ
経営幹部 |
社内のメンタルヘルス対策の推進 |
U種(ラインケアコース) |
管理監督者(管理職) |
部門内、上司としての部下の
メンタルヘルス対策の推進 |
V種(セルフケアコース) |
一般社員 |
従業員自らの
メンタルヘルス対策の推進 |
◆合格者の声―メンタルヘルスについて自信をもって適切なアドバイスができるよう受験 平田 雅子さん 大和ハウス工業 人事部健康管理室シニアメンター
弊社では、健康経営方針として「家づくり、街づくりの基本は健康から。社員とその家族がイキイキと活動できる生活環境づくりを支援します」を健康経営方針として発信し、全国の事業所で働く社員の健康維持・増進のための様々な取り組みを支援しています。その旗振り役を担う人事部員としてメンタルヘルスについても、自分自身がしっかり学び、率先垂範しなければならないと考えていました。知識習得の機会を模索していたところ、社外のセミナーでご縁があった友人から「メンタルヘルス・マネジメント検定試験」を勧められたことが、受験のきっかけとなりました。 まずは、心の不調の未然防止と活力ある職場づくりへの近道として、2種ラインケアコースを受験。合格後は、同じ職場で働く部員にもメンタルヘルスについて理解を深めてもらいたいとの思いから、人事部内でメンタルヘルス・マネジメント検定試験の「団体特別試験」を企画・実施しました。その結果、メンタルヘルス・マネジメントに必要な知識や対処方法を情報共有できたと感じています。 今回合格した1種マスターコースの受験は、事業所からの相談が急増する中、「自信をもって適切なアドバイスをしていきたい」という強い気持ちが原動力となりました。そして、自ら学んで深めた知識を全国の事業所の様々な場面で活かし、”縁の下の力持ち”として、現場を支えていきたいと考えています。 弊社の健康促進活動は、健康促進セミナーの開催や体力測定会、スポーツ大会等様々あり、社員間の心の絆を深めるコミュニケーションツールとしても効果的です。心と身体のバランスのとれた快適な職場環境を目指し、「健康経営」を意識しながら、これからも前向きに取り組んでいきます。
◆過去問題にチャレンジ! ※いずれの問題も第21回公開試験に出題
●1種(マスターコース)
安全配慮義務に関する次の記述のうち、最も適切なものを一つだけ選び、解答用紙の所定欄にその番号をマークしなさい。 @就業先企業が安全配慮義務を負うのは、労働契約関係にある従業員に対してであり、請負会社社員や派遣社員に対して負うことはない。 A安全配慮義務については、1975年2月25日に言い渡された最高裁判決を契機に、労働基準法第5条で規定されるに至った。 B従業員の健康管理問題に関して、労働安全衛生法に違反した場合には一定の範囲で刑事罰の対象とされるが、それとは別に、事業者は契約責任に基づき損害賠償義務を負担することがある。 C安全配慮義務違反に基づく責任については、消滅時効期間は3年である。
答え B
●2種(ラインケアコース)
「ラインによるケア」に関する次の記述のうち、最も不適切なものを一つだけ選び、解答用紙の所定欄にその番号をマークしなさい。 @「ラインによるケア」の要である管理監督者に求められる主要な役割は、職場環境などの改善と、個々の労働者に対する相談対応である。 A「ラインによるケア」を推進するためには、人事労務に関する知識、組織論の知識、ストレスマネジメントの知識、人間関係調整能力など、幅広い知識が管理監督者に求められる。 B管理監督者が相談を含めて部下の話を聴くときには、説得的な聴き方が、悩みを抱える部下の心の健康問題の解決に効果がある。 C部下からの自発的な相談に対応しながらも、すべて自分だけで対応しようとせずに、必要に応じて事業場内外の産業保健スタッフや専門医への相談や受診を促すことが望ましい。
答え B
●3種(セルフケアコース)
うつ病に関する次の記述のうち、最も不適切なものを一つだけ選び、解答用紙の所定欄にその番号をマークしなさい。 @従来のうつ病では、責任感が強く几帳面でまじめ、周囲の人に気をつかう、何かあると自分を責めてしまうといった傾向がみられる。 Aうつ病では身体症状が自覚されることも多く、何か身体の病気であると本人が考えることも多い。 B午後を中心に仕事にとりかかる気になれない、仕事の根気が続かない、決定事項が判断できない状態となる。 C「興味の減退」と「快体験の喪失」が2週間以上継続する。
答え B
大阪商工会議所は、働く人たちの心の不調の未然防止と活力ある職場づくりを目指して、職場内での役割に応じて必要なメンタルヘルスケアに関する知識や対処方法を習得するための「メンタルヘルス・マネジメント検定試験」を企画・実施している。11月と来年3月に公開試験を行うとともに、随時、企業の会議室などで日時を指定して受験できる団体特別試験も行っている。 【問合せ】メンタルヘルス・マネジメント検定試験センターTEL6944・6141
|