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1.まちづくり関連3法の背景

1−1 商業政策の転換


<中小小売店の衰退>

郊外の幹線道路沿いに大規模な商業施設が次々と建てられ、消費者が郊外へと流出して、駅前などまちの中心地で古くから賑わっていた商店街・市場がさびれていく…。最近、多くのまちでこのような光景が見られます。平成9年度の商業統計によると、小売店の商店数は全国で141万9,696店となり、前回平成6年と比べると 約80,000店が減少しています。この傾向は、昭和60年以降引き続いています。中でも従業員が4人以下の小規模店が、平成6年から平成9年の3年間に約76,000店(増減率−6.8%)が減少しているのに対して、従業員50人以上の店舗は約1,100店(増減率11.1%)増加しており、大規模店の積極的な出店が統計からも読み取れます。(→資料:全国の小売業従業員規模別 商店数)大阪府でも、従業員が4人以下の小規模店が、平成6年から平成9年の3年間に約5,250店(増減率−6.5%)減少しているのに対して、大規模小売店舗法(大店法)の定義による大規模小売店は、90店(増減率6.9%)増加しています。
大規模小売店は、大店法によって中小小売店に影響を及ぼす場合は、出店を調整されてきました。例えば、店舗面 積を減らしたり、開店日を遅らせたりしてきたのです。それでも、中小小売店の減少には歯止めがかかりませんでした。その理由は、車社会への対応の遅れや、消費者のライフスタイルの多様化、後継者難など様々な要因が考えられます。「中小小売業の事業機会を適正に確保する」ことを目的とした大店法も、その役割に限界が出てきたのです。

全国の小売業従業員規模別商店数

従業者規模 商店数(店) 増減(店)
平成6年 平成9年 (増減率)
1〜4人 1,135,716 1,059,305 △76,411
(△6.8%)
5〜49人 354,180 349,225 △4,955
(△1.4%)
50人以上 10,052 11,166 1,114
(11.1%)
合計 1,499,948 1,419,696 △80,252
(△5.4%)
(通商産業省「平成9年商業統計」)

<大規模小売店の生活環境への影響>

大規模小売店の増加により、様々な社会的問題も生じてきました。大規模小売店は、地域住民の買い物利便を向上させる一方、地域の生活環境に様々な影響を与える恐れがあります。
例えば、狭い道路に面した土地に大規模小売店が出店することにより、ひどい交通 渋滞を引き起こしている場合や、学校の近くに大規模小売店が出店して、生徒の登下校の安全や非行防止の点から問題になる場合が想定されます。
このような問題に対し、大店法の調整項目である開店日、店舗面積、閉店時刻、年間休業日数で調整するにはおのずと限界があります。日本商工会議所が各地の商工会議所にアンケート調査をした結果 でも、大規模小売店が住民の生活環境に多くの影響を与えていることが分かりました。

<行政改革と国際化の流れ>

行政改革による規制緩和と地方分権という考え方が、商業政策の分野でも取り入れられるようになってきました。平成7年に「規制緩和推進計画」が打ち出した「経済的規制は原則自由・例外規制、社会的規制は必要最小限」という方針により、経済的な側面 から中小小売業を保護してきた大店法も見直しの対象に含まれることになったのです。
また、平成7年に「地方分権推進法」が制定され、国の権限が地方自治体へと委譲されつつあります。「自分たちのまちのことは、自分たちで決めるべきだ」という地方分権の考え方は、商業政策においても取り入れられる必要が出てきました。
一方、経済が国際化するに従って、わが国独自の商業ルールというのが受け入れられなくなってきました。世界貿易機構(WTO)においては、小売業を含むサービス分野では、経済的な需要を勘案したサービス供給者数の制限などは禁止されることになりました。また、多くの外資系流通 業がわが国に進出する中、グローバルスタンダードに沿った出店の仕組み作りが望まれるようになってきたのです。

<大店法の廃止>

以上のように、大店法では対応できない問題が多く見られるようになってきました。そこで、国では大店法の廃止を柱に、まちづくりの観点から商業をとらえ直す新しい商業政策への転換を決めたのです。

1−2 まちづくり関連3法の概要


昨年5月に開催された国会において、これまで大型小売店の出店調整スキームを規定してきた「大規模小売店舗法(大店法)」の廃止が決まり、代わりにまちづくり関連3法で対応していくことが決まりました。
まちづくり関連3法とは、ゾーニング(土地の利用規制)を促進するための「改正都市計画法」、生活環境への影響など社会的規制の側面 から大規模小売店出店の新たな調整の仕組みを定めた「大規模小売店舗立地法(大店立地法)」、空洞化する中心市街地の再活性化を支援する「中心市街地活性化法」のことです。
これらまちづくり関連3法はいずれも、地域の多様性と主体性を生かすことを目的に、国から地方自治体へ、権限が委譲されていることが特徴です。つまり、自分たちの意思で、わがまちのまちづくりを進めていける、という可能性が拡がったわけです。今後、地域の特性を生かしたまちづくりを進める上では、まちづくり関連3法の内容を十分理解し、活用していくことが望まれます。

法律名 改正都市計画法 大店立地法 中心市街地活法
公布日 平成10年5月29日 平成10年6月3日 平成10年6月3日
施行日 平成10年11月20日 平成12年6月1日 平成10年7月24日
目的 地域の実情に的確に応じたまちづくりを進め、都市計画における地方分権の推進を図る ・大規模小売店による周辺生活への影響を緩和するための社会的規制を実施する
・地方自治体が個別ケースごとに、地域の実情に応じた運用を行なえるようにする
・空洞化の進行している中心市街地の活性化を図る

概要 その種類・目的に応じて、特別用途地区を市町村が柔軟に設定できる(例えば、大規模小売店出店立地の可否を色分けすることも可能)

 

・調整対象は店舗面1,000u超の大規模小売店
・調整対象事項は、地域社会との調和・地域づくりに関する事項(交通渋滞、駐車・駐輪、騒音、廃棄物など)

・「市街地の整備改善」「商業等の活性化」を柱とする総合的・一体的な対策を連携して推進する ・市長村が「基本計画」を作成する
・「基本計画」に沿ってTMO(中小小売業の高度化を推進する機関)などが作成する事業計画を国が認定し、支援を実施する
権限者 市町村 都道府県と政令指定都市 市町村

大規模小売店については、まず、改正都市計画法のゾーニングにより出店の可否を決め、出店可能となれば大店立地法で生活環境への影響を調整します。中心市街地活性化法はこれらの観点とは異なり、空洞化している中心市街地を活性化させるためのプランを市町村が策定し、そのプランが国から認定された場合、各種の支援策が講じられるというものです。


1−3 欧米の土地利用規制の現状


大規模小売店の出店の可否について、ゾーニング的な手法で決めるという仕組みは、欧米の先進諸国でも行なわれています。各国によって制度は違いますが、一般 に「計画があって初めて開発が許可される」ということが、まちづくりの基本にあります。そのため、計画に合わない開発や出店は認められないのです。

<イギリスの場合>

「都市・農村計画法」のもとに、県レベルで策定される「基本計画」と、それを市町村レベルで具体化するための「地方実施計画」があります。「基本計画」は、長期的な開発戦略プランで、土地の自然的美化やアメニティの保全、交通 管理などに関する政策を含んでいます。この中で地区毎の用途地域も指定します。
土地利用規制に関しては、全ての地域を対象にしています。大規模小売店の出店に関しては、全ての地域の建築行為について開発許可が必要になります。開発許可の判断基準は、「基本計画」、「地方実施計画」、中心市街地での開発を促進する中央政府の方針「PPG6(Planning Policy Guidance 6)」ですが、市町村が大幅な裁量権をもっています。
「PPG6」は、中心市街地の開発を促進するため、開発の場所や地点を認定するなど計画主導で行なうことを求めています。また、小売業への開発許可に当たっては、@中心市街地の活力と育成力への影響、A来店する際の交通 手段の選択性、B郊外開発の評価の仕方、などについてテストを行なうことになっています。この「PPG6」は、地方自治体が開発計画を作成する際にも、その内容を考慮しなければなりません。
中心市街地の活性化については、一種の市民ボランティアとしてはじまった「タウンセンターマネジメント」が活発に活動しています。中心市街地の保安や、環境改善を中心に、空き店舗への商業施設誘致などを行なっています。

<ドイツの場合>


連邦建設法」のもとに「建設基本計画」があり、市町村による土地利用と都市建設に関する基礎的な計画を定めています。「建設基本計画」は、10〜15年程度の将来目標として土地利用の概要を定める「土地利用計画(Fプラン)」と、地区単位 の詳細な土地利用規制を定める「地区詳細計画(Bプラン)」に分かれます。Fプランでは、図面 や説明書により学校・病院等の用地、主要交通施設用地、緑地、公園等を定め、市町村など公的な官庁、機関に対して拘束力を持ちます。Bプランでは、Fプランをさらに具体化した土地の建築的利用の区分、建築許容限度(建築物の高さや容積率など)を一体的に定めており、一般 住民の建築行為全てを拘束します。
土地利用規制に関しては、Bプランをもつ地域が対象になります。大規模小売店の出店できる地域は、まちの中心部と郊外の特定地域に限定されていています。また、Bプラン上問題のない地域であっても、@近隣住宅地域への騒音、大気汚染、Aインフラの問題(道路の整備状況等)、B都市構造(既存小売集積)への悪影響、C自然環境の保全(緑地の浸食、景観)、D住民への日用品供給に対する影響、の5つのうち、ひとつでも重大な悪影響が生じる場合には、開発は許可されません。
このような厳しい規制にも関わらず、最近、郊外への大規模小売店の出店が増えはじめ、中心市街地での空き店舗が増加しつつあります。そのため、90年代に入ってから、「シュタットマーケティング(SM)」と呼ばれるタウンマネジメントが、多くの都市で取り入れられるようになりました。SMでは、歩行者専用道路の整備や、観光資源の開発、商業施設の誘致などを行なっています。96年にはタウンマネジメントの全国組織も発足し、今後、その発展が期待されています。

<アメリカの場合>


アメリカでは、州によって法律が異なり、地方政府(市)の権限が強いので、一律の規制はありません。一般 的には、郡や市町村レベルで、土地利用や公共施設整備等についての長期的な総合計画である「ジェネラルプラン」を定め、それを実現するための規制手法として「ゾーニング条例」を採用しています。「ゾーニング条例」は、土地の用途制限や特別 の用途について規定するものです。大半の自治体では、各ゾーン区分ごとに開発可能な用途や物理的条件をリストアップしています。ゾーニングの目的が、公共の福祉の維持・増進に寄与する場合は、それが経済規制にあたるものであっても憲法に違反しないという考え方が有力です。例えば、中心市街地の既存商店街からの税収を維持するという公共の目的があれば、ゾーニングによって大規模小売店の出店を認めないことも可能になります。
中心市街地の活性化については、先進諸国の中でも早くから取り組みをはじめました。各地で課税権など強い権限をもつ特別 行政区「ダウンタウン・インプルーブメント・ディストリクト(DID)」が設立され、タウンマネジメントに取り組んでいます。中心市街地の安全性の維持、ダウンタウンのイメージ改善(ホームレスの社会復帰支援など)、テナントの誘致など、いわゆるショッピングセンターにおける統一的・一元的なマネジメントを商店街で活発に行なっています。

1−4 日本の土地利用規制の現状

が国の土地利用の根幹は、都市計画法によって定められています。国土は、都市計画の対象となる「都市計画区域」とそれ以外の「都市計画区域外」の2種類に区別 されます。さらに「都市計画区域」は、開発を抑制する地域と開発を促進する地域に概ね分かれています。また、これとは別 に、農地や森林地域を保全するための法律もあります。

<都市計画区域と都市計画区域外>

まず、国土は、都市計画の対象となる「都市計画区域」と森林などの「都市計画区域外」に分けることができます。日本の全国土では、その74.3%が「都市計画区域外」に当たります。「都市計画区域外」では、建物の大きさ(容積率等)や種類(用途)の規制を行なう都市計画法が適用されないので、開発に関する規制はほとんどありません。また、「都市計画区域」であっても、市街化区域と市街化調整区域の区分(線引き)が行なわれていない地域(「未線引き地域」)も、開発に対する規制は極めて緩い地域です。
大阪府の場合は全行政面積の99.7%、大阪市の場合は全行政面積が、「都市計画区域」となっています。

<市街化区域と市街化調整区域>

都市計画区域は、全国土の約4分の1を占めています。その内訳は、「線引き地域」と「未線引き地域」で構成されており、さらに「線引き地域」は開発を抑制する市街化調整区域と開発を進める市街化区域に分別 されます。
「市街化調整区域」は、全国土の10.3%を占めますが、原則、市街化を抑制する地域なので、商業施設等の開発については、市街化区域より厳しい基準をクリアする必要があります。(→<開発許可制度>)いわゆる市街地の多くは開発を進める「市街化区域」に指定されていますが、全国土から見れば3.9%に過ぎません。ただし、ここでも無秩序な開発が認められているわけではなく、用途地域という規制によって、建物の種類(用途)や大きさ(容積率等)が決められています。
大阪府の場合は全行政面積の49.5%、大阪市の場合は全行政面積の94.0%が「市街化区域」となっています。いかに市街化が進んだ地域であるかが分かります。

土地利用の状況比較
平成8年3月31日 現在

全行政面積
(ha)
都市計画区域面積(ha)
(行政面積に占めるシェア)
市街化調整区域面積(ha)
(行政面積に占めるシェア)
市街化区域面積(ha)
(行政面積に占めるシェア)
全国 37,782,900 9,692,794 3,892,310 1,459,057
( 25.7% ) ( 10.3% ) ( 3.9% )
大阪府 189,206 188,648 94,965 93,683
( 99.7% ) ( 50.2% ) ( 49.5% )
大阪市 22,484 22,484 1,351 21,133
( 100.0% ) ( 6.0% ) ( 94.0% )

<用途地域> (色塗り)

市街化区域では、「用途地域」という規制によって、その地域で建てられる建物の種類(用途)や大きさ(容積率等)が決められています。都市の図面 に、商業地域や住宅地域という「色」を塗っていくわけです。全部で12種類の「用途地域」が、定められています。(→資料:用途地域と店舗規制)日本の場合、用途地域ではその地域に「建てられない建築物」をリストアップしていますが、欧米の先進諸国ではその地域に「建てられる建築物」をリストアップしている、という違いがあります。この違いから、欧米の先進諸国の方がより一層厳しい立地規制をしていると考えられています。

<特別用途地区>(上塗り)


用途地域に加えて、特定の目的を達成するため、さらに細かく建物の種類を規制したり、緩和したりすることができます。それが、「特別 用途地区」です。これまでは、文教地区や中高層階住居専用地区というように、法律によって、「特別 用途地区」が11種類に限定されていました。今回、都市計画法が改正されたことにより、市町村が、自らの判断で「特別 用途地区」の種類や目的を定められるようになりました。
「特別用途地区」は、用途地域に上塗りする制度です。したがって、既存の用途地域に反する特別 用途地区は、指定できません。また、特定のまちづくりとしての目的を達成するために、規制が認められているのであって、単に商業調整を目的として大規模小売店を規制するためだけの「特別 用途地区」などは認められていません。(→3.改正都市計画法について)

<開発許可制度>


開発許可制度」とは、無秩序な市街化の進行による都市環境の悪化を防止する目的で設けられています。都市計画区域内での開発行為については、事前に知事(大阪市は市長)の許可を受けなければなりません。開発行為とは、主として建築物の建築等を行なうために土地の区画形質を変更する行為のことです。なお、都市計画区域外においては、開発許可制度は適用されません。
大阪府下では、市街化区域内においては500u以上の開発行為のみを対象にし、防災対策など、市街地として最低限必要な水準を確保するための技術基準により審査されます。一方、市街化調整区域においては全ての開発行為が対象になります。市街化を抑制すべき区域である性格上、許可をするのは例外的な扱いとなり、市街化区域よりも一層厳しい規制が加えられます。


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2003.4.1更新
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