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韓国にみるIT普及のポイント


5 普及したインフラを活用した新ビジネス

普及したITインフラを活用して、新しいサービスが次々の出現している。インフラが普及したからこそ誕生したサービスの例として、韓国農協のビデオチャットコールセンター(http://shopping.nonghyup.co.kr/)とキョンヒサイバー大学(http://www.khcu.ac.kr/)を見学した。

5-1ビデオチャットコールセンタ

図11 ビデオチャットコールセンタのイメージ図


「申し込みの方法が分からないのだけど・・・」

韓国農協オンラインショップのコールセンターに問合せがくる。

「ではここをクリックしてください。」

オペレータの顔と声とともに、画面のボタンが緑色の線で囲まれる。クリックすると次の画面に行く。ユーザとオペレータが同じ画面を見て、またオペレータから指示ができるので、スムーズに進む。

「ではここに必要事項を入れて、最後にここをクリックしてください。ありがとうございました。」

一回の問合せは数分で終わる。電話での問合せよりとても早いようだ。電話だけではユーザの見ている画面が分からないので「今どの画面を見てますか?」から始まり、声だけで誘導しなければならない。ユーザが間違えたかどうかも分からないため一つ一つ確認しながらになる。それにくらべると、このシステムは両者にとって快適であるといえる。

今年の2月からビデオチャットのよる受付を初めて現在は10人のオペレータが待機している。このシステムならパソコンが得意でない人にもインターネット経由でショッピングをしてもらえる。農協の顧客は若者が少なく比較的年齢が高い。パソコンが苦手な人も多い。このシステムはまさに農協にうってつけと言える。しかし、ビデオチャットはユーザのパソコンにもカメラとヘッドホンがないと使えない。家のパソコンにカメラがあるなんてまだ少ないのでは?

「韓国ではビデオチャットはとても普及しています。特に若者ではカメラを持っていない人の方が少ないのではないでしょうか?私も家でビデオチャットしてます。もちろん友人とだけですが(笑)」とオペレータ。

統計資料は無いが、韓国であった人に聞くとみんなビデオチャットをやっているという。ビジネスで使うことも多いようだ。電話代もかからないのも良いとのこと。

ホームページにはたどり着いたがそこからどうしたらよいか分からないと購入を断念する人も多いのであろう。そこでこのようなサービスが生まれた。オペレータの顔が見えるということはシステム的には不要だが、ユーザの安心感を与えるという意味では重要であるようだ。

ビデオチャットコールセンタには以下のような利点がある。

パソコンが苦手な人も利用することができる。
リアルタイムに分かりやすく説明できるので、オンラインショップであってもパソコンが苦手な人を顧客とすることができる。
新たな販売チャネルとなる。
サポートセンタとしてだけでなく、新商品やお勧め品の紹介など、販売促進に使える。インターネット経由の対面販売として新たな販売チャネルになる可能性がある。
安心感、信頼感が増す。
やはり顔が見えるというのは重要である。
リアルタイムに対応できる
メールでは、メールを書く時間がかかるし、返答が帰ってくるまでも時間がかかる。電話と同じリアルタイム性を兼ね備えている

日本で同様のサービスはするのはなかなか難しい。ビデオチャット用のカメラが普及してないからだ。どうしてもやろうとするのなら、カメラも配布する必要があるが費用負担が大きすぎる。ビデオチャットコールセンターは、ビデオチャットが普及した韓国だからこそできるサービスであるといえる。ビデオチャットコールセンターはパソコン操作が苦手な人に特に役立つサービスだが、このようなサービスが、パソコンが普及したことによって可能となったというのが面白い。

インフラの普及は新たなサービスの誕生にとって重要であり、さらには経済の活性化にも貢献していると考えられる。韓国では、多くの人が使うことによってインフラの整備が進み、それによってさらに魅力的なサービスが誕生し、さらに利用者が増えるという好循環になっているようである。

5-2サイバー大学

キョンヒ大学内に事務局がある。キョンヒサイバー大学を訪問した。

入った途端、スタッフみんながピリピリと緊張しているのが分かった。スタジオブースでは授業の収録中だった。収録にはとても神経を使うとのことだった。生放送で放映するわけではないのだが、編集は収録と同時に行っている。そうしないと編集作業に時間がかかりすぎてしまうのだそうだ。教授がしゃべっている姿、説明に使っているテキストや資料などを講義に沿って編集している。

編集の合間を縫ってコンテンツプロデューサーに話を伺った。

受講者は20代、30代が多く、やはりパソコンに強い世代が中心になる。いつでも講義を受講できるということをメリットに感じるビジネスマンや主婦が中心でいわゆる新卒は少ない。授業はオンラインですべて行われる。日本で言う放送大学とほぼ同じ。講義を見たことを出席とみなす。教授の姿とテキストが中心だが、数学などではグラフにアニメーションを使い分かりやすくしている。収録はどこででもできるというメリットを活かし、韓国各地でのシャーマニズムの光景を取材したり、NPO代表者へのインタビューなどの授業も行っている。ITに疎い教授には黒板での授業も行っている。

立派なスタジオと設備が整っていたが、はじめは何もないところから開始し、撮影や編集も素人同然から始めたとのこと。受講者からの要望を汲む形で、スタジオや編集機器などを整備して現在の形となった。

最近では、受講者同士のコミュニティも活性化してきて、自己紹介を見事に編集された動画で行うものもいる。受講者同士の掲示板や、教授への質問もできる。

コンテンツプロデューサに運営の苦労を聞くと、「いかに飽きさせずに分かりやすく編集するかがポイント。これについてはやってみたものでないと分からない。映像は、教授の顔だけでもテキストだけでもダメ。テキスト、画像、字幕、アニメーションなどをすべて活用しなければいけない。これについては今後も試行錯誤し、良いものを作って行く。」やはり、やってみないとわからない苦労が多いようで、だからこそやってみた者にしか身につかないノウハウも多いといえるかもしれない。

日本でも放送大学など、似た仕組みはあるが、卒業時に通常の大学と同様の学位を与えるという点が異なる。新たなことにチャレンジする姿勢がこのような点にも現れている。

システムは費用をかければ構築可能という印象をうけたが、収録しながら編集を行うなどのノウハウについては一朝一夕では真似できないのではないだろうか。日本ではこのようなノウハウはサービスそのものがないためにほとんど蓄積されていないと思われる。


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2003.4.1更新
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