大阪商工会議所 HOME

平成12年度税制改正に関する要望
平成11年9月
わが国経済再生の第一歩は、企業が抱える設備・雇用・債務の3つの過剰を解消するなど、バブルの後遺症の本格清算を促すことである。同時に、企業の新分野進出や新規開業を促進するほか、ベンチャー企業等の事業展開を積極的に支援し、現在の閉塞的な状況を打開することが重要である。とりわけ、わが国経済の基盤である中小企業の体質を強化し、経営安定をはかっていくことが大きな課題となっている。
そこで、平成12年度税制改正にあたっては、経済の再生及び活性化、企業の新分野進出及びベンチャー企業等の支援、中小企業の経営安定、バブル清算を促す雇用流動化・土地流動化対策等を最重点とし、その一方で税務行政の効率性を確保されるよう、以下の通 り要望する。



1.経済の再生・活性化

(1)企業負担の軽減

 
  1.欠損金の繰り越し、繰り戻し期間の延長
  現行の欠損金の繰り戻し期間は1年で、繰り越しは産業活力再生特別 措置法を受けた租税特別措置により過剰設備の廃棄によって生じた欠損金に限っては5年から7年に延長されたが、欧米先進国と比べてもまだ短く、企業が過剰設備の解消や経営の建て直しを図るのに十分でない。したがって、欠損金が生じた理由を問わず、繰り戻しは3年、繰り越しは10年に延長されたい。なお、繰り戻し還付は創業5年以内の企業を除き、平成12年3月31日までに生じた欠損金について不適用となっているが、早急に全ての企業の適用を認めるべきである。

  2.法人住民税および法人事業税の超過税率の廃止

法人住民税および法人事業税の超過課税(制限税率)は、法人に対する過度の税負担を強いるものであるため、早急に廃止されたい。

  3.特別法人税の廃止

企業年金の運用難・積立金不足が問題となっているなかで、企業年金の積立金に課税される税率1%の特別 法人税は負担が大きすぎる。企業年金の役割が今後ますます重要になると考えられることも踏まえ、現在、凍結されている特別 法人税は廃止されたい。 

  4.受取配当の100%益金不算入の復活

法人の受取配当の益金不算入割合は、平成2年度から特定株式(株式保有割合が25%以上のもの)以外は80%に制限されているが、配当所得にかかる所得税と法人税を通 ずる二重課税の排除を徹底するために、同割合を100%に戻されたい。

  5.印紙税の廃止

不動産譲渡や消費貸借などの契約書、手形、売上代金にかかる金銭・有価証券の受取書などに課税される印紙税は、企業が商取引を行う上で大きな負担となっている。電子商取引などにおいてインターネット上で作成された契約書や領収書では非課税となっていることから、統一性を図るためにも、印紙税を廃止されたい。

(2)連結納税制度の早期導入

純粋持株会社の機能を十分に生かすため、また2000年3月期からの連結会計制度の移行も踏まえ、欧米では一般 的に認められている連結納税制度を早急に導入されたい。

(3)個人所得税・住民税の税率構造の見直し

平成11年税制改正で、所得税・住民税の最高税率の引き下げと定率減税が実施されたが、抜本的な改革は見送られた。各種控除額と税率構造の見直しにより、課税ベースを広げるとともに累進性を緩和し、税率適用区分の簡素化を図られたい。

(4)配当課税の見直し

企業の資金調達の方法が多様化しつつあるわが国においては、個人投資家の参入を促し、今後さらに投資活動を活発化させることが重要である。この点、現行の税引き後利益の中から分配された株主配当にさらに課税する制度は、二重課税であり、投資活動に影響することになる。従って、配当課税の廃止、または配当税額控除額をさらに引き上げられたい。


2.企業の新分野進出・ベンチャー企業等の支援


(1)ベンチャービジネス支援関連税制の創設及び拡充

経済活性化のためには企業家精神旺盛なベンチャー企業の育成・発展が欠かせない。そこで、以下のようなベンチャー企業や投資家に対する税制上の優遇措置を講ずることが重要である。

  1.ベンチャービジネスに対する課税の特例の創設
  
  ア)起業支援税制の創設


  開業5年以内の一定規模以下の企業に所得課税が発生した場合は非課税とされたい。

  イ)起業家支援税制の創設

起業家が自己資金を会社設立時に自己資本に充当した場合、その資金の2分の1相当額を所得控除する制度を創設されたい。また、起業家が個人として借りた借入金を会社設立時の自己資本に充当した場合、その金利相当分を所得控除できる制度を創設されたい。

  2.ベンチャービジネスの資金調達円滑化支援税制の創設及び拡充
 
  ア)ベンチャーキャピタル支援税制の創設

ベンチャー企業に投資した法人が、投資額の2分の1相当額を損金算入できる制度を創設されたい。

  イ)エンジェル支援税制の拡充

平成9年度の税制改正で、個人投資家によるベンチャー企業にかかる株式の譲渡損失を3年間繰り越せるエンジェル支援税制が創設されたが、損益通 算は他の株式との譲渡益のみに限られている。本制度をさらに実効あるものとするために、個人がベンチャー企業に投資を行い、キャピタル・ロスが生じた場合には、給与所得など他の所得と損益通 算できるよう拡充されたい。 

   ウ)未公開株式市場における株式売買にかかる譲渡益課税の軽減

ベンチャー企業など未公開株式の流動化をはかり、一層の投資を促すため、未公開株式市場におけるベンチャー企業などの株式売買にかかる譲渡益課税を軽減されたい。

(2)非公開企業のM&Aを促進するための税制の創設

企業の新分野進出を促し、わが国産業構造の高度化に資するとともに、地域経済における中堅・中小企業等が有する経営資源の有効活用を促進するため、既存企業の合併、買収等を積極的に支援・推進していく必要がある。そこで、非公開企業のM&A促進を図るため、経営権の譲渡となる発行済株式総数の3分の2以上の株式を売却した場合、売却益の2分の1の申告分離課税とされたい。また、税制の公平を確保するため、当該企業の残りの株式を保有している株主がその株式を譲渡する場合においても同様の措置を講じられたい。


3.中小企業の経営安定


(現行20億円超)にするなど税率の累進構造を緩和するとともに、基礎控除額の定額控除は1億円(現行5000万円)に引き上げられたい。さらに、土地評価においては収益還元方式を取り入れるなど評価方法を改善されたい。   
  1.事業用資産の納税猶予制度の創設

中小企業の円滑な事業承継のために、事業用資産(土地、建物、自社株式等)は一般 の相続財産から切り離し、農地を相続する場合のような納税猶予制度を創設されたい。
   2.取引相場のない株式の評価方法の見直し
取引相場のない株式の評価方法について、全ての規模の会社に類似業種比準価額方式または純資産価額方式の選択適用を認めるなどの改善を図られたい。また、類似業種比準価額方式における減額率(現行30%)を50%以上にすべきである。

   3.贈与税の基礎控除額の引き上げ

現経営者が生存中に事業承継が行われることは、不測の事態による混乱を回避し、中小企業の経営安定と継続的発展のために大いに有益なものである。そこで、生存中の経営者から事業承継する者への取引相場のない株式の譲渡に対しては、一定額の特別 控除制度を創設されたい。また、昭和50年以来据え置かれている贈与税の基礎控除額を300万円(現行60万円)に引き上げられたい。

(4)中小企業の設備投資を促進するための税制の拡充

国内外において高度情報化が急速に進展し、国際競争力強化が重要課題となるなか、以下の税制拡充により、中小企業の設備投資を促進し、景気の自律的回復、産業活力の再生はもちろん、中小企業の情報化、技術力強化をはかられたい。

   1.中小企業投資促進税制の拡充

現行の中小企業投資促進税制をさらに効果あるものにするため、中小企業が機械設備などを取得またはリースした場合の税額控除または特別 償却をそれぞれ10%(現行7%)、40%(現行30%)に引き上げられたい。また、対象設備の取得金額要件については100万円以上(現行230万円以上)、リースの場合は150万円以上(現行300万円以上)に引き下げられたい。なお税額控除を適用できる中小企業については、資本金1億円以下(現行3000万円以下)に引き上げられたい。また、平成12年5月31日までとなっている適用期間を延長されたい。

   2.中小企業技術基盤強化税制の拡充

現行の中小企業技術基盤強化税制を一層効果あるものにするために、中小企業が支出した試験研究費に対する税額控除を30%(現行10%)に引き上げられたい。対象となる試験研究費の範囲も、委託研究の場合の委託先を公的機関に限るのではなく、民間企業も認めるなどの拡大を図られたい。また、平成12年5月31日までという適用期間を延長されたい。

   3.中小企業メカトロ税制の拡充

メカトロ税制におけるメカトロニクス機器など特定電子機器利用設備を取得した場合等の税額控除または特別 償却をそれぞれ10%(現行7%)、40%(現行30%)に引き上げられたい。対象設備の取得金額要件については100万円以上(現行160万円)、リースの場合は150万円(現行210万円)に引き下げられたい。なお税額控除を適用できる中小企業については、資本金1億円以下(現行3000万円以下)に引き上げられたい。また、平成12年3月31日までという適用期間を延長されたい。

   4.特定情報通信機器の即時償却(パソコン税制)の拡充

平成11年度税制改正で100万円未満の一定の情報通信機器を取得した場合に、取得価額の全額を損金算入できる特定情報通 信機器の即時償却制度が創設されたが、取得価額を資産計上することなく一括損金算入できるようにされたい。また、平成12年3月31日までという適用期間を延長されたい。
   5.少額減価償却資産の取得価額基準の引き上げ
平成10年度税制改正で20万円から10万円に引き下げられた少額減価償却資産の取得価額基準を、早急に20万円以上に引き上げられたい。

4.雇用流動化の促進


(1)確定拠出型年金の非課税措置

平成12年秋の導入が予定されている確定拠出型年金については、企業の拠出金、従業員・個人の掛け金を非課税とし、積立金の運用益については課税を繰延べ給付時課税に一本化されたい。
(2)退職金税制の見直し
わが国では、今後雇用の流動化がますます進んでいくとみられる。終身雇用を前提とした現在の退職金税制(所得控除額が勤続20年までは1年につき40万円で、それ以降は1年につき70万円)は転職者に不利な税制となっている。そこで、雇用流動化に対応し、転職者に対しても公平を期するため、勤続年数に関係なく1年につき70万円を控除する制度に改められたい。
(3)特定支出控除の適用要件の緩和
雇用流動化をはかるには、個人の職業能力向上が重要である。現在、給与所得控除額を超える通 勤費・研修費・資格取得など勤務に必要な一定の支出があった場合は、給与所得控除に代えて、その支出額を控除できる特定支出控除制度があるが、適用者は皆無といってもよい。そこで、研修費・資格取得など技能向上に関する支出は給与所得控除とは別 に一定額を控除できるように特定支出控除の適用要件を改められたい。
(4)再就職支援準備金制度の創設
労働力の流動化に対応できるよう、従業員の再就職支援に必要な資金を経理上損金として積み立てできる「再就職支援準備金制度」を創設されたい。

5.土地流動化の促進


(1)固定資産税の抜本的改革

  
   1.固定資産税の負担軽減と税負担の公平化

平成12年度は固定資産税の評価替えの年度にあたるが、地価下落にもかかわらず、固定資産税の負担は依然重く、特に都心の商業地における税負担は過重になっている。また、負担水準は全国各地でばらつきがあり、納税者の税負担の不公平が生じている。土地評価においては、収益還元方式を取り入れるなど評価方法の改善とともに、課税方法の簡素化を図られたい。税率(標準税率1.4%)については、大幅に引き下げるとともに超過税率(制限税率2.1%)を直ちに廃止されたい。
   2.家屋評価の簡素化と経年減点補正率の見直し
家屋の評価については、その時点で当該家屋の建築に要する費用を「再建築価格」とし、時間の経過による損耗度を示す「経年減点補正率」を乗じて計算されているが、再建築価格の評価方法を簡素化するとともに、平成10年度税制改正での建物の法定耐用年数の短縮に伴い、経年減点補正率を減価償却率並みにするなどの見直しをされたい。
(2)事業用資産の買替え特例の拡充
平成10年度税制改正で、長期所有の事業用資産の買替え特例の課税繰延割合が80%に引き上げられたが、さらに100%までに引き上げられたい。

(3)地価税の廃止

平成10年度税制改正で地価税は当分の間停止となったが、固定資産税との実質的な二重課税であり、また特定業種(デパート、ホテルなど)に負担が偏るなどの問題があるため、廃止されたい。

(4)土地流通税の軽減

平成10年度税制改正で土地譲渡益課税の軽減が図られたが、さらに土地流動化を促し、経済を再活性化させるため、土地流通 税(不動産取得税、登録免許税)についても軽減されたい。

6.公益法人課税強化への反対
公益法人課税の見直しは、個々の公益法人の活動状況を十分踏まえて実施する必要があり、商工会議所のような特に公益性の高い法人は、その存在意義や役割がむしろ地方自治体や公共法人と同等であると言え、現行以上の課税強化を行うべきでない。


7.税務行政の効率性の確保

(1)納税者番号制度の導入
経済活動のボーダレス化、金融資本取引の多様化、電子商取引の拡大が進展していること、また確定拠出型年金の導入などにも伴い、課税の公正化・適正化を図るために納税者番号制度の導入に向け、検討を進めるべきである。その際には導入コストの抑制を十分念頭におくとともに、情報漏洩防止に万全を図り、目的を逸脱した使用には厳罰を科すなどプライバシー保護を図るなどの配慮をすべきである。

(2)納税者の利便性向上と徴税の効率化

減税財源を確保するためには、国・地方を通じた徹底的な行財政改革による歳出削減が第一である。そこで、納税者の利便性の向上に資するためにも、国税と地方税とで別 々になっている徴税を一本化するなど税務行政の効率化に努められたい。また、将来的には間接税を増やし、幅広い所得層から公平に徴税するために直間比率の見直しを検討することも必要である。


2003.4.1更新
Copyright(C) 1996-2003 大阪商工会議所