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中堅・中小企業の資金調達多様化に関する提言
金融機関は98年4月からの早期是正措置導入の影響で、自己資本比率の維持・上昇を図るため、貸出資産の圧縮や選別 融資の強化を行っている。このため、間接金融に依存している中堅・中小企業は必要な資金の調達難に直面 している。また、新しい金融商品の解禁など個人の資産運用の多様化や2001年4月からのペイオフが、金融機関の融資原資となる預金量 にどのような影響を与えるか予測できない。
今後、中堅・中小企業の経営安定を維持していくには、これまでの間接金融に加えて、直接金融による資金調達の途を拡大していくことが重要である。
こうした中堅・中小企業の資金調達多様化に着目し、98年8月より学識経験者や金融専門家、中小企業経営者等で組織する「金融ビッグバンと中小企業」研究会を設置した。同研究会では、各界の専門家を招いてヒアリングするとともに、在阪中堅・中小企業にアンケート調査を実施するなど、検討を行った。
そこで、同研究会の検討結果をもとに、中堅・中小企業の資金調達多様化に関して、投資家の自己責任原則を踏まえつつ、以下の通 り、公的信用保証の多角的な利用をはかり、短期的には中小企業向けに間接金融の強化を促すとともに、中期的な観点から中堅企業を中心に私募社債市場の整備・活性化、ベンチャー企業向けにエクイティ・ファイナンスの環境整備などを実現し、わが国経済の基盤を支える中堅・中小企業の経営安定に資するよう提言する。



1.中小企業向け間接金融の強化等


(1)信用補完制度の維持・拡充
    98年10月に導入された中小企業金融安定化特別保証制度は、当面の中小企業の資金繰り難に一定の効果 が現れた。そこで、金融経済環境の変化が落ち着きを見せるまでの間、特別 保証制度を維持するとともに、状況に応じて保証枠拡大、期限延長等の措置を講じるなどの信用補完制度の整備・拡充を行う必要がある。

(2)政府系中小企業金融機関の融資拡充等

    一昨年来、中小企業金融公庫、国民金融公庫、商工中金などの政府系中小企業金融機関の融資拡充が行われ、中小企業への貸し渋りが若干緩和された。現下の金融情勢のもとでは、民間金融の補完的立場から政府系中小企業金融機関の役割は増大しており、融資枠の拡大や融資期間・返済猶予期間の延長などの拡充が望まれる。

(3)金融機関の中堅・中小企業向け貸付債権の流動化促進

    金融機関の貸出余力拡大のため、金融機関が保有する中堅・中小企業向けの貸付債権を特定目的会社(SPC)に譲渡して流動化をはかることが望まれる。こうした措置により、金融機関は自己資本比率の低下を招かずに、引き続き中堅・中小企業に資金を供給することが可能になる。その際、SPCが発行する貸付債権担保証券に公的保証を付与し、金融機関の貸付債権の流動化を促進することが重要である。

2.私募社債市場の整備・活性化


私募社債は、現在ほとんどの場合担保を必要とし、また受託と引受が同一金融機関内で行われるため、銀行借入と何ら変わるところがなく、直接金融手段としての魅力に乏しい。そこで、私募社債市場を活性化するため、以下の条件整備をはかることが必要である。

    (1)信用保証協会による信用補完措置
     中堅企業等の私募社債発行に際し、信用保証協会の保証を付与するなど、担保提供を必要としない直接金融による資金調達の道を開くことが重要である。また、信用保証協会の保証付き私募社債の流通 を円滑にするために、転売しても保証が自動的に移転するよう明文化する必要がある。

    (2)中堅・中小企業私募社債のパッケ−ジ化による流動化促進
     中堅・中小企業単独の私募社債では発行額が小さいため、受託・引受機関(銀行、証券会社等)および投資家の双方にとって魅力に欠ける。そこで、受託・引受機関が複数の中堅・中小企業の私募社債をパッケ−ジにして特定目的会社(SPC)に売却し、同SPCが発行する私募社債担保証券に公的保証を付与して流通 促進をはかることが望まれる。

    (3)中堅・中小企業向けの格付け
     投資家の自主的判断に基づく私募社債の購入を促すためには、外部機関からの格付の取得が重要である。現在我が国では、財務内容を中心とした大企業向けの格付基準を中堅・中小企業が発行する私募社債向けの格付にも適用している。そこで、中堅・中小企業の私募社債向けに将来性や技術力などの視点を加えて格付区分を細分化するなど、新たな格付基準を確立することが望まれる。

    (4)私募社債の発行コストの低減
     私募社債は、銀行借入に比べ金利、諸手数料などトータルの発行コストが高く、相対的に利用が少ない一因となっている。したがって、私募社債の受託、引受手数料引き下げなど発行コストの低減をはかり、銀行借入に伴う金利、諸手数料などとの格差縮小をはかることが重要である。

3.ベンチャー企業向けエクイティ・ファイナンスの環境整備

(1)未公開株式流通市場の育成

    ベンチャ−企業等の資金調達の円滑化をはかるためには、投資家が未公開株式流通 市場に積極的に参加し、活発に取引を行うようなしくみを整備することが重要である。このため、未公開株売買にかかる株式譲渡益について申告分離課税を2分の1に軽減するなどのインセンティブを創設することが望まれる。また、投資家を広く集めるために、インターネット等を活用した取引状況等の情報提供制度を整備する必要がある。

(2)投資時点での税額控除の創設・エンジェル税制の拡充

    個人投資家のベンチャー企業等への投資を活発化するには、投資した時点で所得税から投資額の10%を税額控除できる制度を創設するなどの思い切ったインセンティブが必要である。こうした税額控除の創設が困難な場合は、現行のエンジェル税制について、投資損失額を給与所得など他の所得と損益通 算できるように拡充することが必要である。


2003.4.1更新
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