㈱柴田書店『月刊ホテル旅館』寄稿コラム 2014年1月号より
  • 第11回 2014年はどんな年?
  •  「こぞ今年 貫く棒の 如きもの」と言う高浜虚子の句があるように、新年になったからといって、旧年とまったく違う年になるものではありませんが。でも、そう言ってしまえば身も蓋もないわけで、ここは年改まって気持ちの切り替えをすることが大切です。そのためにこそ初詣はあります。前年、幸に恵まれなかった人は、初詣で思いっきり厄払いを済ませて、希望の1年間になるようにします、と誓うことです。念のため申しますが、神頼みは自ら努力することを前提にしております。神は自らを助く者を助く、というではありませんか。客観的に見ますと、私たちの身の回りの環境は、ずいぶんと良くなってまいりました。努力が報われる外部環境にあります。欧州の債務問題は危機を脱したといわれています。中国は安定的な成長をめざす政策を遂行中です。アメリカも消費は回復しています。日本はアベノミクス効果が有効性を保っております。でも、正直なところ、そろそろ成長戦略が目に見える形で出てこないことには、心配になります。成長戦略を実行するのは私たちです。その私たちは、地元を早く国家戦略特区に指定してもらいたいと思っています。日本各地にヤル気が満ち満ちているうちに、政府は民間からの力を引き出すことです。
  •  全体として外部環境も、そして気分、意欲が好ましい状態にある中、心してかからなければならないのは、この4月に控えている消費税の増税でしょうか。国民の大多数が理解を示しておりますが、増税を受け入れるには前提条件があります。ひとつは価格転嫁が正しく行なわれ、弱い立場の中小企業が犠牲にならぬようにすること、もうひとつは福祉の保障を国民に示すことです。将来の不安があっては消費マインドが萎縮してしまいます。何のための消費税増税か、政府も国民も、ここはしっかりと肝に銘じて、前提条件をクリアしなければなりません。それでも消費税増税はやはり心配だ、という方がおられるはずです。それはきっと、消費税増税の駆け込み需要の反動減を心配してのことだと思います。いつか来た道です。そこで、政府は5兆円もの予算措置を講じて景気が冷え込まない対策を打っております。ここは政治を信頼してみましょう。でも、考えてみれば、耐久消費財ではないツーリズムは、消費税が上がるから今のうちに旅行だ、と考える人は極めて少数でしょう。逆に駆け込み需要の恩恵のないのは残念なことですが、それがまたツーリズムの強みです。ツーリズムの強みとは何か。私見ですが、その時、その場、その場合、つまりTPOがあるのがツーリズムの強みです。時間の流れの中では、二度と同じTPOはありません。積み上がった在庫の整理もありません。そこがツーリズムの強みです。だから人は惜しむように、その時、その場、その場合を求めて旅をするのです。ツーリズムの本質を私はそう理解しています。
  •  さて今年の関西には、どんなTPOがあるのでしょうか。もっとも大きな期待の星は、今夏に大阪のUSJに開設されるハリーポッターのテーマパークです。1200万人以上の入園者があるものと予想されています。 これに季節ごとに特色を生かした演出が加わるでしょうから、TPOは多種多彩なバリエーションを持つことになり、リピート率も向上します。TPOを意識した戦略の有効性は、13年のUSJ入場者が1000人を超えたのではないか、といわれていることで証明されます。当初、ライバルの東京ディズニーランドが開場30年を迎えるというので、USJは入場者を控えめにみていたのですが、何のなんの、前年を上回る結果となりそうです。そしてハリーポッター開園の今年こそ、さらなる実力発揮の時です。予想の1200万人を大幅に上回るゲストをお迎えするのではないでしょうか。海外を含めて関西以外からの来園者が80%を超えると予想されており、宿泊先は大阪だけでは対応できず、近隣他府県にも広がるものと期待されます。
  •  続いて来年と再来年は大阪の陣400年。大阪城を中心にいろいろな催事が企画されています。今年はプレ大阪の陣として、前景気上々の人出となることでしょう。何しろ気の早いのが日本人です。大阪城だけではありません。20年開催の東京オリンピックのムードは、今年あたりから関西にも押し寄せてくることでしょう。東京という名の付いたオリンピックだが、実際は日本オリンピックである、と言ってくれる政府高官がいます。海外からの訪日旅行者に、日本の文化の基層を成す関西の空気に触れていただくことが、成熟国家でのオリンピック開催の意義だと認識しての発言だと理解しています。
  •  そしてオリンピックの翌年。ワールドマスターズゲームズを関西広域連合が中心となって誘致しました。海外からお越しになる人は、3万人以上と予想されています。加えて、東京オリンピックの前年にはラグビーのワールドカップが日本で開催されます。私たちは、世界規模のスポーツの祭典が3年続いて日本で開催されることを強く意識してかかるべきです。そうです。「スポーツツーリズム」です。観光庁はスポーツツーリズムを担当する専門組織を設置したら良いと思います。この他にも次々とイベントが控えている関西ですが、とにかく今年はハリーポッターという超大型イベントです。TPOの利点を発揮するUSJの成功に学べば、翌年以降のさまざまなイベントの成功につなげることができます。在庫がほしいのに在庫がないのが観光の強みです。私たち観光業に携わる者はTPOを意識し、TPOを深堀し、本年を将来につなげる希望の年といたしましょう。

((株)柴田書店出版の『月刊ホテル旅館』に2014年1月号より掲載開始。)