㈱柴田書店『月刊ホテル旅館』寄稿コラム 2013年8月号より
  •  第6回 東北被災地の勇気
  •  6月に立て続けに東北に行ってきました。仙台市、宮古市、山田町、大槌町、釜石市、山形市です。大阪商工会議所の議員懇親旅行で函館と大沼公園など函館近郊も訪問しましたから、ひと月に東日本を7ヵ所以上訪ねたことになります。
  •  仙台市では、日韓商工会議所首脳会議が開催されました。昨年は韓国の釜山で開かれ、今年は日本での開催だったのですが、東日本大震災の被災地を選んだのは、日本商工会議所の賢明な判断だったと思います。韓国商工会議所の孫会長はじめ副会長の皆さんは、石巻市の復興状況も視察され、力強い復興の動きに感銘された様子でした。こうした民間レベルの交流とそれによる信頼関係の構築は、地震と放射能の風評被害の解消にとどまらず、こじれている政治状況を打開する糸口になるということを双方で確認しあうことになり、大きな成果だったと言えるでしょう。8月下旬には、釜山、光州の商工会議所会長が大阪に来られることになりました。昨年、釜山での首脳会議で釜山の名産のひとつである海苔をいただきましたが、仙台での懇親会でそれが話題となり、それでは韓国海苔と日本の寿司の合作で太巻き寿司を楽しもうと話が発展、意気投合した次第です。コラボレーションはシェールガス発掘にも及び、ソウル会議所副会長からは、日韓の資本で共同開発をするのはどうですか、という提案もありました。実現に向けた動きになるかもしれません。
  •  「ささえよう日本 関西からできること」。おせっかいかもしれないけれど、東日本がシンドイとき関西が元気で頑張らなきゃ、という思いで関西の文化人、経済界の代表が名を連ねて共同宣言を発したのは、東日本大震災発生の年の4月初旬でした。東北地方太平洋沖地震発生の直後、京都大学の中西寛教授から連絡があり、「これは非常事態です、早くアクションを起こさないと」とご提案があり、当時阪大総長だった鷲田清一さんにメッセージを作成していただきました。字数は800字を少し超える程度ですが、中身が濃いメッセージです。「この国のどこかが危機に瀕したときにはまわりのどこかがしっかり支える、そんなたくましい国と社会のあり方について、さまざまな提案をしてゆきます」で締めくくっておりますが、不肖私は、この文言を反芻し、微力ながら行動をいたしております。
  •  宮古市では山本正徳市長が、田老地区防潮堤のかさ上げと、鉄道と市街地中心部再開発のビジョンについて熱く語っていました。真新しい仮設魚市場はすでに稼働、また宮古市特産のワカメ、昆布の生産加工が順調に進み、こうした足元を見つめた取り組みにご支援できるのは大阪商工会議所が例年秋に実施している逆商談会での海産物の売り込みだろうと思い、参加を呼びかけました。ささやかですが、一大消費地である関西でできることのひとつです。山田町も漁業中心の町ですが、佐藤信逸町長は、あの地震の年に鮭が帰ってこなかったことを嘆いておられました。瓦礫で海と川が汚れ、水質が変化したことによるらしいのです。昨年の鮭の漁獲量は7000トン。前年に比べておよそ10分の1にまで減ったそうです。稚魚を放流したが、生育して帰ってくるのは、4年後。今年も期待できないそうです。加えて、頭を抱えているのは二重ローン問題とのことです。わが家や工場を建てた直後に地震で流されローンだけ残っている町民を何とか救いたい、と動いてはいるのですが、遅々として進んでいないようです。中西教授の言う非常事態がまだ続いているということです。わが社から山田町には復興庁経由で技術者1名、宮古市には2名が派遣され、復旧復興のハード面でお手伝いをしていますが、ソフト面での支援、救済と一体となって進める必要があると痛感しました。
  •  地震後、私は被災地に毎年1、2度訪問いたしております。今回もそうでしたが、力強く真っ先に立ち上がるのは商人のように思えてなりません。生活の利便性を回復させようと仮設店舗を構え、日常の食料品を揃えた店舗のほか、理髪店、美容院、飲食店も集まり商店街を形成している姿は、商人のたくましさそのものです。大きな土産物屋もあると、つい買ってしまうことになります。逆に土産物屋がないと、旅先にあるものですから、何か物足りない気分になってしまいます。商品、サービスの力の大きさに改めて驚きます。ひるがえって、関西の土産物について考えました。新幹線の新大阪駅に行けばよくわかります。品数が圧倒的に多く、京都らしいブランドが並んでいるのが京都です。神戸はどことなくハイカラな品揃えです。大阪はというと、アイテムは多いのですが、ユニークとしか言いようのない小物グッズとバラエティに富んだというか、面白いネーミングの菓子の類です。3都の個性が関西を引っ張っているという感じですが、さて商品開発力はどこが一番か。売れ筋のベスト10には何が入り、3都市比較ではどんな順位か。では、どうして、違いが出てくるのか。興味深い考察をしてみたくなりました。京都、大阪、神戸の3都市だけではありません。大津、福井、鳥取、和歌山など個性的な都市が集まっているのが関西です。幕内から横綱までの関西諸都市土産物番付表をつくってみたら、おもしろいかもしれません。技を磨き、大向こうをうならせる勝負をして四季ごとに競い合えば、関西のポテンシャルが目に見えるようになるものと思います。
  •  「ささえよう日本 関西からできること」を実行するには、関西がまず元気にならなければなりません。東北被災地の皆さんからいただいた勇気が後押ししてくれそうです。

((株)柴田書店出版の『月刊ホテル旅館』に2013年8月号より掲載開始。)