㈱柴田書店『月刊ホテル旅館』寄稿コラム 2013年6月号より
  •  第四回 「縁」の連鎖に想うこと
  •  ご縁というものは不思議なもので、私たちは人知の及ばないところで動かされている、と思うことがあります。昨年9月にニューヨーク、アトランタ、シアトルを訪問、続いて本年2月にシアトル、ポートランドに行ってまいりましたが、この2月の北米訪問だって、昨年9月の訪問に導かれて実現したものですから、そもそものご縁は昨年9月が始まりです。ご縁の連鎖は続き、シアトルから帰国してそれほど日を置かずして、東京出張の機会に「オレゴン」というレストランで食事をいたしました。ポートランドに行った時、ワイナリーに立ち寄り、ドメーヌ・セリーヌというワインを試飲し、この時のテイストが舌と喉に記憶となって残っていたのでボトルを買って帰ったのです。それも空になってしまいましたので、ドメーヌ・セリーヌはないかと探していましたところ、東京にオレゴンというレストランがあるのを知ったのです。そこでドメーヌ・セリーヌを堪能したことはいうまでもありません。
  •  ご縁の連鎖は続きます。先だって大阪西区にあるホスピタリティツーリズム専門学校を訪れましたところ、びっくりいたしました。なんと、この学校は毎年約100名の学生をシアトルに留学させているそうです。ご縁は途絶えることがありません。今度は4月下旬にシアトル観光局の皆さんが大阪にやって来られました。市内のホテルでシアトル観光局主催のパーティが開かれました。シアトル観光局は「ビジット・シアトル」と名前を変え、トム・ノーウオークCEOを団長に東京と大阪での観光プロモーションにやってきたのでした。No2で日本贔屓のジャネット女史も同行、2月のシアトル視察団の皆さんと再会を喜びました。ホスピタリティツーリズム専門学校の校長さんも急遽参加して、交流の輪が一層広がりました。4月1日発足した大阪観光局の加納局長も、もちろん出席です。ご縁を大切にして濃密な連携を構築されんことを期待しております。その翌日がまた、スゴイ。返礼に大阪市内の老舗の天ぷら屋さんにビジット・シアトルの皆さんをご招待したのですが、勢いで夜は大阪が発祥の地である回転寿司に行くことになりました。日の出の勢いで出店している回転寿司屋さんですが、社長の御曹司がかつてシアトルに留学していたことがわかりました。なんと、奥さんはシアトル人。これ以上の偶然があるでしょうか。
  •  こう次々と連鎖反応が起こりますと、人知の及ばぬところで人は動かされていると謙虚な気持ちにならざるを得ないではありませんか。そして、ご縁は大切にしなければ、と自らに言い聞かせざるを得ません。さらに、ご縁は続くのです。実はこの8月、シアトルを訪問する予定です。兵庫県とシアトルのあるワシントン州とは本年友好連携50周年を迎えます。大阪、神戸、京都の商工会議所会頭は仲が良くて、そろって50周年の記念行事に参加します。50周年の当たり年に恵まれたのも人知の及ばぬところ、参加しなければ罰当たりというものです。ポートランドとシアトルは春から秋にかけて魅力がいっぱい。冬はというと、これも魅力の数々。ワイナリー、オペラ、消費税なしのアウトレットモール、シーフードなどなど。あとは、機内のサービスです。デルタ航空は日本の航空会社ではありませんから、日本流の至れり尽くせりのきめ細かいサービスの提供を求めるのは酷というものでしょうが、旅の楽しみは道中からです。
  •  「わが社の飛行機に何が欠けているとお思いでしょうか」 3月下旬、デルタ航空のアジア太平洋地区担当上級副社長さんが大阪にやってきました。2月のシアトル訪問からひと月。迅速な反応です。「2つほど、指摘するものがあります」 そう、私は申しました。そして、なぜ機内にワシントン州かオレゴン州のワインを用意していないのでしょうか、と不満を述べました。フランスとカリフォルニア産のワインもよろしいが、ご当地ワインもほしいではありませんか。それともうひとつ。往路の食事は満足でしたが、復路の機内食は冷解凍の技術が未熟なためでしょうか、水気のないパサパサの食材でした。シートもインテリアもよくなっているのに、これでは画竜点睛を欠くことになるので遠慮なく申し上げる次第です、と注釈も付けました。「どちらも、カイゼンのテーマにします」 副社長は前向きの対応を約束してくれました。日本のカイゼンは世界語です。
  •   「ところで、関空はLCCの搭乗手続きの場所が国際線ターミナルと遠く離れています。不便です」 副社長からも指摘を受けました。「機内フードと同じレベルのカイゼンですね」 私はそう応じ、意見交換をさらに有意義なものにしようと、こう述べました。「京都、神戸の魅力は周知のことでしょうから省きますが、大阪には大相撲春場所があり、文楽があります。シアトルは教育水準も所得水準も高いと聞いています。きっと大阪の魅力を堪能いただけるのではないでしょうか」 関空-シアトル便の年間デイリー運航が実現すれば、活発なアウトバウンド、インバウンドが実現することはまちがいありません。シアトル便のデイリー運航が実現した後は、デトロイト便、アトランタ便の就航が課題となることで意見は一致しました。日米間の活発で安全な往来の継続。これこそが真の意味での友だち作戦です。ご縁は大切にしなければなりません。

((株)柴田書店出版の『月刊ホテル旅館』に2013年6月号より掲載開始。)