佐藤会頭の眼~講演録
Chairman’s Eye with you

2014年9月4日(木) 国際観光文化フォーラムin京都 

「USJが示すこと」


眠れる資産の掘り起こそうという話をいたしました。
ここで、USJに話を戻し、おもてなしの観点からUSJの好調要因を考えてみたいと思います。

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 USJが大人気を保っている秘密を探る鍵は、東京大学名誉教授 木村尚三郎先生の「耕す文化の時代」にあります。エッセイストとしても有名です。少し紹介させて頂きますと、「どんな土地にも、その土地なりの自然があり、歴史があり、伝統がある。そうした土地ごとの文化の特性に自信を持って、もっと世界に売り出していくべきである。これからは東京だってもっと地方化して、東京なりの土地の魅力を打ち出したほうがよい。」「そして、東京も含めた日本全体が、それぞれの土地の魅力をフル活動してそれぞれの形で未来を切り拓いていくこと、それこそが、今最も求められている「国際化」ということなのではないかと思う。」と書かれています。

 カルチャーを日本語に訳すと「耕す」「文化」と言う意味があります。即ち文化とは耕すことであります。例えば、それぞれの土地を耕して、その土地、土地の野菜を栽培し、調理して楽しむこと、それは食の文化であります。ですから、和食はそれぞれの土地の料理であり文化と言うことになります。そして、その土地の和食を世界に発信するのが地方からの文化戦略であり、国際化であります。耕すのが文化であります。

 USJには、耕して、耕して作り上げ、スタッフ全員が共有しているUSJならではの価値観、行動様式があります。つまり、これを文化と定義付けたいのですが、このことについて少し申しあげたいと思っております。USJに入りますと、現実を忘れる夢の世界になります。人の目を気にすることなく、コスプレやキャラクターの衣装を着けて堂々と入っていける、それは、夢の世界、非日常の世界を作り上げています。

 ではUSJはどうやって非日常の世界を作り上げているのか、これを申しあげておきたいと思います。どういうことかと言いますと、USJの閉園時間についてお話しをしたいと思います。一般の施設では、閉演の時間がくると蛍の光の音楽を流して終了のサインを送ります。これは珍しいことではないと思います。飲食店でも、閉店時間が近づくとお客そっちのけで、従業員が帰り支度を始めるところもありますが、これでは、おもてなしにならないわけであります。

 USJは違います。蛍の光の音楽を園内に流す、そんなことはしていません。それではどうやってゆるやかに現実の世界に戻しているのでしょうか。例えば若いカップルがベンチに座っているとします。閉園時間を気にすることなく、夢の世界、二人の世界に浸かっています。ではどうやって閉園に気付いていただくか。それは、二人のスタッフがベンチに少しずつ近付いていって、無言のまま、ライトを下に向けて点けて、じっと待っています。本人たちが気付くまで待っているのです。閉演時間が来たから、はい終わりというわけではないのです。現実の時間にすぐに戻させない、USJはこうした細かいことができるのであります。それが、成功の要因の一つではないでしょうか。

 引き続きUSJの事例を見てまいります。ハリーポッターエリア オープンの当日は、3,000人以上が列を作りました。USJではエリアオープンに際し、1,000人のスタッフを採用しました。そして、魔法界という非日常を演出するためには、スタッフの立ち振る舞いが重要だと考え、事前に5時間以上かけて映画の世界観を学び、試験にパスした人だけが現場に出られるようにしました。非日常の世界を作るため、従業員の教育に時間をかけ、ゲスト満足度を高めるための取り組みです。

 有名なジェットコースターを後ろ向きに走らせた事例について、これは既存のレールを使ったいわばリノベーションで、コストを大幅に抑えた企画です。にもかかわらず日本におけるアトラクションの待ち時間記録を更新するアトラクションとなりました。大規模な新規アトラクションの投入は大きなインパクトをもたらします。しかし、それだけではなく、アイデアを振り絞ることにより、テーマパークとしては極端に少ない投資で最大の効果を出したUSJの戦略には頭が下がります。