佐藤会頭の眼~講演録
Chairman’s Eye with you

2014年(平成26年)7月14日(月) 平成26年度大阪大学先端教養科目「関西は今」での講演

「覚めよ、有為の青年よ」

  • その3(私鉄経営のビジネスモデルの転換)

 こうした環境下で、私鉄経営もビジネスモデルの転換を迫られました。それまでの私鉄経営は、「運賃改定」と「土地の含み益」という2本柱でなりたっていました。ところが、運賃改定は平成7年を最後に一度も行われていません。土地の含み益も地価の下落に伴い見込めなくなり、従来のビジネスモデルが通用しなくなったのです。

私は平成13年に社長となりました。当時は国際会計基準が導入され、不動産の含み損を貸借対照表に反映しないといけなくなる等、企業にとっては非常に厳しいときでした。ただ、こうした変化は先読みできたことです。経営者は常に時代を先読みしないといけませんが、運賃改定と土地の含み益で経営が成り立ってきたので、そこまで意識が向かわなかったのでしょう。そこで、私は社長就任直後、一気に含み損を計上、配当も無配とし、ビジネスモデルの転換を図ることを決意しました。

そのひとつの事例としてくずはモールのリニューアルをご紹介しましょう。くずはモールは昭和47年に開業しました。当時は日本で最初のオープン型モールとして全国各地から多くの見学者が訪れる画期的な商業施設でした。ただ、時代とともに競合店ができ、お客様のニーズも変わり、くずはモールの売上は下がっていきました。

一方、テナントからの賃料は固定賃料だったので、売上が下がっても利益は出るわけです。利益が出ているのだから、敢えて投資をしてリニューアルする必要がないという判断で、何十年もリニューアルをせず放置されてきました。商業施設はやはり数年に一度はリニューアルしないとお客様が離れてしまいます。

 そこで、2005年にやっとリニューアルをしました。リニューアル前後の数字を比較すると、売上高や店舗数が増加しています。なかでも特に注目してほしいのが、投資利回りです。リニューアル前は4.3%だったものが、リニューアル後には10.6%になりました。

なぜこのように投資利回りが変化したのか。モールの土地は京阪電鉄の所有です。随分前に買った土地ですから、簿価が安く、リニューアル前でも利益が出ていたわけです。それがもしイオンなど流通専門の会社であれば、当然その時の時価で土地を買いますね。その時価でもって利益を出さないといけないわけです。その発想が、鉄道会社にはありませんでした。そこで、2005年のリニューアル時に、PM(プロパティマネジメント)の発想を導入しました。京阪グループの流通専門の会社が京阪電鉄に賃料を支払い、運営を行う体制にあらためました。簿価ではなく、時価で勝負する構図に変えたわけです。

このくずはモールのリニューアルは、従来の私鉄経営のビジネスモデルから脱却しなければならないという社内の意識改革につながりました。初めて京阪電鉄が過去のビジネスモデルから決別した一番良い事例だと今でも信じています。
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