「渋沢栄一と大阪~関西企業との関わりを中心に~」(平成27年4月16日)

 宮本先生の司会により、シンポジウムが開催された。会合では、渋沢栄一翁の精神が、東洋紡㈱や京阪電気鉄道㈱でどのように受け継がれ、現在これらの企業にどのように生かされているかにつき、具体的な事例紹介を含めて意見交換が行われた。当日は京阪電気鉄道㈱最高顧問を務める佐藤会頭も出席し、自らの社長時代を振り返りながら渋沢翁との関わりを披露した。また東洋紡㈱からは津村相談役が出席し、企業理念から事業理念への変遷などを語った。

「渋沢栄一と大阪~関西企業との関わりを中心に~」(平成27年4月16日)

概要

□日 時:2015年4月16日(木) 18:30~20:45
□場 所:綿業会館(中央区備後町2-5-8)
□主 催:東洋紡㈱、公益財団法人 渋沢栄一記念財団
□後 援:大阪商工会議所
□パネリスト:津村 準二(東洋紡㈱ 相談役、一般社団法人日本綿業倶楽部 理事・会長)
       佐藤 茂雄(京阪電気鉄道㈱ 最高顧問、大阪商工会議所 会頭)
       阿部 武司(国士舘大学政経学部 教授)
       老川 慶喜(跡見学園女子大学副学長、観光コミュニティ学部教授)
 司 会:宮本又郎(大阪大学名誉教授、大阪企業家ミュージアム館長)
□参加者:東洋紡、大阪商工会議所関係者を含む一般参加者 約250名

 席上、佐藤会頭は以下の通り渋沢翁との関わりを振り返り参加者に披露した。

 「当社は昨日105年目の開業記念日を迎えた。実際の開業は明治43年だが会社設立は明治39年。平成13年に私は社長に就任したが、社業は大変苦難の時期で、社運挽回のため就任後直ちに経営改革に乗り出したことを思い出す。渋沢翁を意識したのは、社長職を引き継いで落ち着いてきた頃。わが社が創業100周年に向けてこれから飛躍しようという環境が整い始めたころ、創業者である渋沢翁に出会った。というのも実はそれまで自分自身の中では、村岡四郎社長の存在が大きかった。創業100周年を迎えるにあたって昭和38年に京阪電鉄の淀屋橋延伸を成し遂げた村岡社長の、「先覚の志ここになる」という言葉を思い起こし、先覚とは一体誰のことか改めて考えなおす機会があった。実は京阪電鉄が開業した当初、北浜への乗り入れを市役所と交渉していたが、民の乗り入れを拒んでモンロー主義を貫く大阪市の対応に窮し、やむなく天満橋を起点に京都方面への鉄道をスタートさせるほかなかった。村岡社長は淀屋橋の延伸実現にあたり、創業当時に路線開設で苦慮された渋沢栄一翁のことを思い起こし、先覚の志という言葉を使ったのに違いないと確信している。こうしたことから、過去から現在へと続く京阪電鉄の歴史の連続性の中で渋沢翁の理念は生き続けていると改めて感じた。
 2006年に東洋紡の津村相談役と対談する機会があったが、実は本日一緒にパネリストを務める津村さんは、私自身が就職活動をしていた折に人事担当だった方であり、東洋紡でお会いしたというご縁もある。津村さんからも「順理則裕」という社是のお話があったが、私にとっても論語と算盤は経営のコツを学べるバイブルのような書であり今も愛読している。私自身、その影響もあって経営の品格をいち早く高めようと主張してきたし、自ら箸をとれという一節を今でも大事にし、若い人々にチャレンジの重要性を常々呼びかけている。社長当時に作成した中期計画JUMP21はこの渋沢精神を意識したものだ。」

 また司会の宮本先生は、「渋沢翁は、東洋紡や京阪電鉄の立ち上げ時にみられるように東西の事業を合体し加速させるいわばアクセラレーターであった。その合本主義はたんなる株式にとどまらず、人と人を結びつける存在であったことが大事なポイントだ。京阪電鉄も東洋紡も創業者の経営理念を次にどう残すか、また企業理念を事業理念にどう進化させていくかが今後の課題になる。」と指摘した。

 これに対して佐藤会頭は、「京阪電気鉄道の創立には関東、関西の経済界が期せずして関与したが、関西側の一人に土居通夫氏がいる。この方は大阪商工会議所会頭を長く務められ、その後京阪電気鉄道の社長となった。宮本先生のお話の通り、昔は渋沢翁のような偉人の方が中心となって、東西人脈ネットワークの接点となってサポートしていたが、今は組織の時代。接着剤の役割を果たすのはまさに商工会議所の役割だ。直近の事例を申し上げると、つい先日訪問した堺の会社(樋原製作所)と東京大学医学部附属病院のコラボにより試作した手術用器具を今朝の甘利大臣との懇談の場で披露した。またスペイン人の企業経営者が本社を東京から大阪に移して事業を展開されているが、これは大阪商工会議所、大阪府、大阪市とが共同で大阪に誘致したものだ。先般、本社で社長にお会いし、日本のコンテンツを世界に発信しているお姿に感銘を受け、今後も商工会議所でもできる限りお手伝いしたいと思ったところだ。中小企業はオーナー経営者そのものが企業理念であり、大変分かりやすい。一方老舗企業や大企業は組織で動いており、全体でそうしたものを共有するのは難しい。渋沢栄一の思想をどう浸透させるかが我が社に問われている気がする。私自身、渋沢栄一翁・論語と算盤を説いている。常に皆さんに披露しているのは「自ら箸を取れというチャレンジ精神を鼓舞する一節と、大正維新の覚悟の章で 維新とは「日に新たなり。日に日に新たにして、また日に新たなり」という言葉。渋沢翁の思想は万古不易の考えだ。またデフレ時代しか知らない若者にとっては、デフレを脱却しつつある今日、これから新たな時代を生き抜くのだから、福澤諭吉が唱え、渋沢栄一も生きた一身二生の覚悟が必要だ。」と締めくくった。

CIMG0868.JPG「 シンポジウム 「渋沢栄一と大阪~関西企業との関わりを中心に~」の司会進行役を務める宮本又郎・大阪大学名誉教授(大阪企業家ミュージアム館長)」
CIMG0885.JPG「席上、京阪電鉄と渋沢翁との関わりなどにつき意見発表を行った佐藤会頭」
CIMG0935 Z.JPG「当日の会合は綿業会館7階で開催され、250名近くの来場者が参加した。」
CIMG0948.JPG「パネル・ディスカッションでの津村相談役(右)と佐藤会頭(左)」
CIMG0961.JPG「登壇者が順に意見発表を行った。登壇者左から老川氏、佐藤氏、津村氏、阿部氏。右端は司会の宮本氏」