大阪商工会議所は、働く人たちの心の不調の未然防止と活力ある職場づくりを目指して、職場内での役割に応じて必要なメンタルヘルスケアに関する知識や対処方法を習得するための「メンタルヘルス・マネジメント検定試験」を企画・実施している。11月と来年3月に公開試験を行うとともに、随時、企業の会議室などで日時を指定して受験できる団体特別試験も行っている。
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ストレスチェック義務化2年目 継続で結果を有効活用
テキスト編集委員会委員 松本桂樹さんに聞く
メンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的に、「ストレスチェック制度」が従業員数50人以上の事業場を対象に義務化されて2年目に入った。大阪商工会議所が企画・実施する「メンタルヘルス・マネジメント検定試験」のテキスト編集委員会委員で、外部機関としてストレスチェック業務を受託しているジャパンEAPシステムズの松本桂樹社長は、「継続して取り組むことで、結果を職場の環境改善に向けて有効活用できる」と継続することの重要性を指摘した。
――初年度の実施状況がまとまりました。
「当社がストレスチェック業務を受託している231社に実施した調査では、全体で従業員の回答率は89.4%だった。制度が義務化される以前から自主的に実施している会社では回答率が高いし、高ストレスに該当した場合の医師面接の受診もスムーズだ。回を重ねることで、回答率も上がり、有効に活用できるということだろう」
――高ストレス者の割合をどう受け止めるといいですか。
「全回答者に占める高ストレス者の割合は11.4%だった。これは、厚生労働省のマニュアルに記載された数値(約10%)よりもやや高い。なかには20%を超える職場もあった。命をあずかる現場など、精神的・肉体的な負荷の高い職種では高めに出やすい。高ストレスと判定されても直ちに医師面接の対象になるのではない。職種の特徴なども考慮して各企業で医師面接の対象者の基準について産業医と相談しておくのが望ましい」
――今回の結果から見えてきた各企業での課題は何ですか。
「高ストレス者で医師面接の対象に該当するが、面接を受けようとしない人へのフォローの仕方に課題がある。対策としては、時期を見計らい、ストレスチェック以外の気になる理由をもとに医師に面接してもらうことも一つだ。医師面接を希望しなかった場合、1回は実施者や実施事務従事者から再確認の連絡をすると事前に取り決めておくのもよい。面接する医師が話しやすい人柄であったり、人気があると面接に行きやすいという話も聞く」
――結果の取り扱いが個人情報の管理の観点から難しいという声も聞きます。
「個人結果は人事担当者などの実施事務従事者や、産業医などの実施者は知りうる立場にある。一方、人事権を持つ総務部長や人事課長が知るには、情報共有について本人からの同意が必要だ。この辺りもこの制度の運用が難しく感じられる点である」
――制度を有効に活用するにはどうすればいいですか。
「初回だった今回は、結果をどう生かすかよりも実施することで各社とも精いっぱいだったようだ。定点での社員リストをまとめるのも大変だったという声もある」
「2回目の結果が出れば、1回目と比較して対策を議論できる。特に集団分析の結果を踏まえた対策の検討が重要だ。結果を他の部署と比較するよりも、同じ部署での経年変化を見る方が対策を立てやすい。そして、現場の管理職に思い当たるところをヒアリングして環境改善に向けたグループワークを実施するなどの次に向けたステップにつなげていくとよい」
――企業での対策の一つとして大阪商工会議所の「メンタルヘルス・マネジメント検定試験」の活用が考えられます。
「人事労務管理スタッフや管理監督者、一般社員といった職位・職種別に応じて、法令や疾病に関する知識やストレスへの対処法など多岐にわたる必要な項目を1冊のテキストで学ぶことができるので、メンタルヘルスに関する正しい知識を効率的に習得しやすい」
「今回、テキストが改訂され、ストレスチェック制度の概要や留意事項が盛り込まれた。メンタルヘルスに関する最近の動向や各種法令の改正も加わっているので、メンタルヘルス不調の防止や職場環境の改善にお役立ていただきたい」
まつもと・けいき 1995年東京学芸大学大学院教育学研究科心理臨床講座修了(教育学修士)。97年ジャパンEAPシステムズに入社し、2001年EAP相談室室長、13年社長。臨床心理士。精神保健福祉士。1級キャリアコンサルティング技能士。メンタルヘルス・マネジメント検定テキスト編集委員会委員。47歳。
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受験者は45,000人超
メンタルヘルス・マネジメント検定試験の特徴は、(1)第一次予防(疾病の未然防止)に重点を置いている(2)ラインによるケア、組織全体によるケアの促進を目指している(3)産業保健だけでなく、人事労務管理の観点も重視している──の3点。試験は、職位・職種別(対象別)に3つのコースを設定している。2016年度の受験者数は45,000人超に上った。
メンタル不調 未然に防ぐ
1.メンタルヘルスケアに関する知識や対処方法を効率的に習得
「メンタルヘルスケアに関する知識」を習得しようとする場合、その内容は「疾病に関する知識」だけでなく、「ストレスへの対処方法」「法令や指針に関する知識」「コミュニケーションのとり方」「職場環境の改善」など多岐にわたり、これらを一つひとつ調べていくことは相当な時間と労力を要する。
同検定試験の公式テキストは、社内での役割に応じた知識や対処方法が体系的に1冊にまとめられているため、効率的に学習することが可能。
2.学習の成果を客観的に測定し、知識を確実に定着
検定試験を受験する場合、聴講するだけの研修や講演とは違い、受験者が自発的に公式テキストや問題集などで学習することになるため、一層の知識の定着を図ることが可能。
検定試験を受験することで、合否や点数などにより、知識の定着の度合いを客観的に測定することができるため、社員に受験を奨励するほか、管理職への昇進の条件として活用している企業もある。
3.人材育成プログラムを拡充し、現場で知識を活用
「メンタルヘルス・マネジメント検定試験」を企業単位で導入することにより、社内の人材育成プログラムを増やすなど、社内におけるメンタルヘルス対策を拡充することが可能。
正しい知識や対処方法を身につけた従業員が社内に増え、それぞれの職場で役立てることが、メンタル不調を未然に防ぐことにつながる。「団体特別試験」制度を活用することで、社内で日程や場所を設定して受験することもできる。
公式テキスト改訂 最新の動向を反映
同検定試験の公式テキストを4年ぶりに改訂し、今年6月に「第4版」を発行した。
今回の改訂では、ストレスチェック制度など第3版発行以降の法令改正や職場のメンタルヘルス対策をめぐる動向などを盛り込むとともに、各種統計調査の結果を更新した。
これに伴い、第23回公開試験(11月5日実施)から、第4版に準拠して出題。また、9月以降に実施する団体特別試験も第4版に準拠して出題する。
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合格者の声 受験を通じ、確かな知識に
ダイキンエアテクノ 計装事業部 水谷有花さん
当社では「明るく元気な職場作り推進」を目的とする活動の中で、部員への2種取得を推奨し、受験要領などPR活動を実施しています。私は上記の取り組みにより取得を目指す同僚を知ったことをきっかけに、セルフケアのみならず、職場の心の健康保持に必要な知識を学び、当社の元気な職場作りに少しでも貢献したいと思い、2種を受験しました。
公式テキストには、不調時における社内での相談対応のポイントをはじめ、ストレス要因や心の不調に対する早期の気づきと対処・軽減の仕方、不調者を出さないための職場環境の改善方法などが体系的にまとめられており、合格という目標を持って学習することで、知識の定着をはかることができます。
学習方法は、テキストを一通り読み、その後市販の過去問題集を繰り返し解きました。過去問題集で分からない点は、テキストを読めば必ず理解できる内容が書かれていたので、効率良く、安心して勉強できました。
2種では後輩を持つリーダー層、部下を持つ管理職の方にぜひ学んでいただきたい内容が網羅されていますし、3種は一般社員、とくに学生から社会人になって大きく環境の変わる新入社員の方には、大いに役立つと思います。
私は、1種まで受験して無事合格することができましたが、受験することで、一時的な知識ではなく、職場で実践できる知識が身についたと実感しています。今後は、社内のコミュニケーションをさらに円滑にし、働きやすい職場づくりと社員の心の健康の増進に向け、学んだことを一つひとつ行動に移していきたいと思っています。
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過去問題にチャレンジ!
V種(セルフケアコース) 第17回出題
自己管理としての早期対処に関する次の記述のうち、最も適切なものを一つだけ選び、解答用紙の所定欄にその番号をマークしなさい。
(1)メンタルヘルス不調は、心理的な分野であるだけに発症の状態が第三者には分かりにくいという面がある。
(2)人によりストレスの現れ方は違うが、「気分が乗らない」、「少し落ち込んでいる」などの気分の面に強くでる人がほとんどである。
(3)メンタルヘルス不調の初期段階では、それが単なる一時期の心の反応なのか、それともすでに病的レベルの問題であるのかの区別はつきやすい。
(4)メンタルヘルス不調の問題は、多くの場合、独力で解決できる問題が多いので、まずは自力で対処してみる。
答え(1)
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U種(ラインケアコース) 第17回出題
部下のストレス要因に対する管理監督者の対応に関する次の記述のうち、最も不適切なものを一つだけ選び、解答用紙の所定欄にその番号をマークしなさい。
(1)勤務成績の査定が悪かった部下や、本人の性格に問題があって職場で孤立している部下に対して、注意深く様子を観察し、しばしば声をかけて心身の健康状態を確認するように努めた。
(2)この3カ月間、部署全体で1カ月当たり100時間を超える残業が続いているので、業務量の偏りや仕事の配分を見直し、全体の残業時間を減らすよう対策をとった。
(3)結婚や出産、昇進などの喜ばしいことが続いている部下でも、さりげなく心身の様子を尋ねるなど、無理のない範囲で注意を向けるようにしている。
(4)嫌がらせやいじめ、セクシュアルハラスメントの訴えが相次いだが、慎重な対応が必要と、具体的対応はとらずに様子を見た。
答え(4) |