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2.街づくり研究会でのとりまとめ

大店法にかわるものとして、まちづくりに関連する3法が成立し、その運用権限は地方自治体に委ねられることになりました。この機会に、地元商業者をはじめとする住民参加による新しいまちづくりを進めることが重要です。そこで、大阪商工会議所では昨年6月より、商業まちづくり委員会の下に街づくり研究会(座長:石原武政・大阪市立大学商学部教授)を設置し、まちづくり関連3法の活用策と今後のまちづくりのあり方を検討してきました。研究会での議論のとりまとめは、以下の通 りです。

2−1 まちづくり関連3法の意義と問題点


まちづくり関連3法の枠組みでは、まず、大規模小売店の新規出店の可否を「改正都市計画法」の特別 用途地区設定等のゾーニング的手法によって判断します。立地が可能となれば、次に「大規模小売店舗立地法」(大店立地法)により生活環境面 の保全の観点からチェックすることになります。地域商業との調和について、都市計画という手法で対応するというのは、国際的な流れに沿ったものです。また、大店法では対応できなかった大規模小売店の立地と生活環境への影響について、チェックできる仕組みとなったことの意義は大きいと言えます。一方、空洞化が進む中心市街地に対しては、「中心市街地活性化法」により、関係省庁が連携して集中的な施策が講じられることになりました。
この新しい枠組に対して、商業者は大きな期待を寄せています。しかし、今後のまちづくりの進め方を考える上で、まちづくり関連3法が実際に機能するのかどうかについては、まだいくつかの問題が残っています。特に指摘された問題点は、次の通 りです。


○ まちづくり関連3法の成立に当たっては、大店法にかわるスキームづくりという前提があったために、大規模小売店問題のみに過剰に偏った議論が行なわれてきました。そのため、大規模小売店と同じく、住民の生活環境に影響を与えるおそれのある他の大規模集客施設は、大店立地法の対象とされていません。しかし、大規模小売店問題だけを議論しても住民の生活環境の維持・改善という点では、本質的な問題の解決にはなりません。この際、大規模小売店問題にこだわらず、もう少し広い範囲でまちづくりを考え直す必要があるのではないでしょうか。

○  まちづくり関連3法という呼称が一般に定着してきました。「改正都市計画法」と「大店立地法」が大規模小売店の出店に対する規制法的な性格を持つのに対して、「中心市街地活性化法」は地域振興法的な性格を持っています。「改正都市計画法」では大規模小売店の立地そのものが議論され、「大店立地法」ではその地区への立地を前提として、周辺の生活環境への影響を審議するものとされています。両者は別 々の法律になっていますが、実際上の運用では、これらを一体的に運用できる仕組みが求められています。また、「中心市街地活性化法」も大規模小売店の郊外での立地規制を伴って、はじめて実効性を持つことができるのでしょう。

○ 「改正都市計画法」は建設省、「大店立地法」は通産省と担当が分かれています。このいわゆる縦割り行政がそのまま地方自治体に持ち込まれ、地方でも縦割りのままにこの問題が受け止められると、まちづくりについて有効に対応することはできません。実際のまちづくりは、様々な施策が総合的に組み合わされることによって、はじめて効果 を生むものです。地方自治体がどれだけ総合的に取り組んでいけるのかが成否のカギだと言えます。


以上の問題点が指摘されているように、まちづくり関連3法で対応できないところをそれぞれの地域で補足していく必要があります。そのためにも、まず、まちづくり関連3法の意義と内容を正確に理解しておくことが求められます。以下では、まちづくり関連3法に関し、各法についての議論を総括しながら、特に留意すべき点について要約しています。

2−2 ゾーニング的手法

地域商業との調和はゾーニングで行なうことになり、その役割を特別 用途地区が担うことになりました。特別用途地区が本当に機能するかどうかが注目されていますが、用途地域を補完する特別 用途地区にも、その働きに自ずから限界があります。主な留意点は、次の通りです。

<「改正都市計画法」の枠組み等>

○ 今回の都市計画法の改正では、都市計画区域内で用途地域が指定されている地区に、市町村で独自の特別 用途地区を定 めることができるようになりました。これはほぼ市街化区域に該当する区域で、わが国の国土全体からみればわずか3.9%にすぎません。特別 用途地区の指定だけでは、現在深刻な問題となっている郊外出店に対応することはできません。

○ 市街化区域内では特別用途地区を定めることができますが、実際には利害関係の複雑な用途地域の上に新たに特別 用途地区を設定することには、かなりの困難が予想されています。特に、立地規制を強化しようとすれば地価に直接影響を持つため、市町村のよほど強い意思と住民のまちづくりに対する理解が必要になります。なお、特別 用途地区を設定した場合、用途地域で決められた建築物をより限定的に規制するだけではなく、緩和することも可能ですが、地区計画のように建築物の敷地面 積や形態など、建築物の用途以外を規制することはできません。

○ 特別用途地区は市町村の側から設定する場合には非常な困難が伴いますが、地域住民によるまちづくり活動が盛り上がり、地域整備の手法として特別 用途地区の活用が必要となった場合には、市町村も動きやすく、実効性を持つことが期待できます。
   例えば、小学校・幼稚園の周辺において、娯楽施設、大規模小売店などを規制したい場合は「児童通 学環境保全地区」、既存商店街において街路に面した1階部分の用途を規制し、上層階への居住を義務づけたい場合は「住商共生地区」という特別 用途地区を設定することなど、地域に応じた様々な活用も考えられます。この他、研究会では特別 用途地区の候補として、伝統文化保存地区、中低層路面型独立店舗集積地区などのアイデアが出されました。

○ 商業者を含む住民によるまちづくりへの盛り上がりがあり、合意形成が期待できるときには、「都市計画法」では地区計画の手法も準備されています。この制度を活用すれば、地区内においてきめ細やかな管理が可能となります。制限の恒久化を心配する向きもありますが、まちづくりの手法としては今後、積極的な活用が検討されるべきでしょう。

○ その他、地域によっては町並み協定や景観協定などを締結するところもでてくるでしょう。これらは法的根拠がなく、強制力を伴わないという意味で限界が指摘されていますが、地元における地道なまちづくり活動の成果 として、第三者に対して遵守を呼びかけることは是非とも必要でしょう。


<郊外立地をめぐる問題>

○ 大阪府下の場合、全行政面積の99.7%が都市計画区域に指定され、市街化区域も約5割を占めています。このように市街化した大阪府地域では、郊外立地については以下のような問題はあまり生じませんが、全国土をみた場合、都市計画が及ばない面 積が国土の約4分の3を占め、その多くは農地等です。このような中、近年特に問題となっているのは、市街化調整区域や都市計画区域外に出店する大型ショッピングセンターの郊外立地です。しかし、今回の「都市計画法」の改正による特別 用途地区では、郊外に出店する大型ショッピングセンターの立地を規制することができません。中心市街地を活性化しようとする限り、郊外出店に対しては少なくとも計画的に管理する手法が担保されていなければなりません。

○ 市街化調整区域は原則として市街化を抑制する地域とされていますが、既存宅地をはじめ様々な「工夫」によって実質的には開発が進められる場合が多く見られます。開発行為には、地方自治体における開発許可が必要とされていますが、今後、この開発許可手続きを一層厳密に運用するとともに、許可にあたって全ての案件について審議会や公聴会を開催するなど、より公開かつ公平な運用が求められるでしょう。

○ 未線引きの白地地区についても建築等の制限が設けられていますが、市街化調整区域以上に開発が行われているのが現 状です。この地区についても、地方自治体の総合計画等の公的な計画を参照しながら、計画的な開発許可を進める必要があります。

○ さらに、都市計画区域外の農地にまで開発の波は押し寄せています。現在、「農村地域活性化のための土地利用調整の円滑化について」という通 達によって、農地の開発を進めることが認められていますが、今国会でこれが新たに法制化されようとしています。農地をどのように保全あるいは開発するかは、まさに地域の総合的な計画に基づくものであり、これらの開発についてもさらに慎重な議論が必要となるでしょう。


<用途規制と開発計画>


○ ゾーニング的手法は用途規制と開発許可を中心としたものと考えられていますが、用途規制そのものはかなり目の粗いもので、それにふさわしいインフラ整備が実現されているとは限りません。したがって、用途規制を基本としながら、地域によっては、地方自治体の総合計画や都市計画マスタープラン(都市計画法18条の2)等に即した施設の立地を、一層誘導していくことが必要になるでしょう。例えば、商業地域内では、建築等についてほとんど何の制限も設けられていませんが、大規模集客施設の立地となればよりきめの細かな立地規制が必要になるかもしれません。

<ゾーニング条例または要綱の制定>


○ 特別用途地区の制定、各種協定の遵守、開発許可手続きの公開、広域調整、総合計画等の尊重など、上記の手法を活用しようとすれば、地方自治体レベルで条例または要綱を定めることが必要になるかもしれません。それぞれの自治体において実現可能な方法で、かつまちづくり計画に対して実効性のある対応が求められます。

2−3 大規模小売店舗立地法

「大店立地法」については現在、指針の作成中で不明な点が残されていますが、大規模小売店の新規出店について生活環境面 (交通、騒音、廃棄物、その他)のみからチェックするとされていて、それだけで「まちは本当に大丈夫なのか」という懸念があります。
健全な地域社会、都市を維持していくには、大規模小売店と地域がどのように調和してゆけばよいかという、街づくりへの総合的な取り組みが必要ではないでしょうか。主な留意点は次の通 りです。


○ まちづくりへの貢献 地元商業者からは、出店する大規模小売店には、まちを一緒によくしていこうという姿勢が期待されています。「大店立地法」の運用に当たっては、商業者、住民の意見を単に聞くというのではなく、出店者とまちの商業者や住民、行政とがまちづくりについて直接協議し意見交換ができる場を設け、活用することが望まれています。 ○ 環境基準の活用方法 大規模小売店の設置者が配慮すべき事項については、生活環境が異なる中心市街地と郊外では、その影響の度合いも異なってきます。中心市街地と郊外では環境基準を分けることも有効な手段です。 ○ 大規模集客施設を含めた立地環境に関する条例等の制定 周辺の生活環境に影響を与えるのは、大規模小売店だけではなく、娯楽施設など大規模集客施設の全般 です。また、新規出店の大規模集客施設ばかりでなく、既存の施設に対しても生活環境への影響をチェックする仕組みが必要です。大規模集客施設や既存の施設も包括した条例や要綱を制定するなど、一括して対応することが望まれています。

2−4 中心市街地活性化法

ヨーロッパでは、国家ができる前に都市がありました。都市には必ず中心市街地があり、商業は都市の財産であるという認識があります。一方、日本では国家が先行し、都市や自治という考えが乏しかったと言えます。特に、大都市では、どこが中心かという議論がないまま人口拡大に伴う郊外化が進んだために、中心市街地を設定することが困難になり、今日の「中心市街地活性化法」への対応がより難しくなってきています。例えば大阪の場合、広域商圏を持つ大阪市と、府下の市町村は分けて考える必要があるでしょう。主な留意点は、次の通 りです。


○ 大都市では、まちづくりに熱心かどうかも判断基準として中心市街地の指定を考えるべき 「中心市街地活性化法」の基本方針では、政令都市等を除き中心市街地を原則、1市町村1地区と定めています。しかし、例えば広域商圏を持つ大阪市のような大都市では、ふさわしい地区が複数存在します。熱意をもって活性化に取り組んでいる地区であれば、1カ所に限らず、行政も重点的に投資・支援し、まちづくりにつなげていくという大都市用の仕組みが必要です。
○ 特別用途地区と組み合わせて活用する まちづくり関連3法の中で、まちづくりを積極的に推進する性格を持つのが、「中心市街地活性化法」です。関係13省庁が連携して講じられる総合的・集中的な施策は、市町村がより積極的なまちづくりに取り組むためのモチベーションとして作用するという効果 があります。中心市街地の指定を受けた地区においては、特別用途地区の設定をうまく活用すれば、全体として良好なまちづくりが可能になります。
 ○ 中心市街地と郊外の関係 中心市街地活性化によって及ぼされる影響については、郊外への影響も含めて考える必要があります。中心市街地と郊外では、求められる商業機能の役割も異なってきます。双方の役割が相殺されないように、商業活性化に関して広範な目で見る必要があります。

2−5 まちづくり関連3法を生かす方法

まちづくり関連3法を活用していくとしても、3法だけではどうしても対応できないところがあります。この状況で運用権限は地方自治体に委譲されることになりました。まちづくり関連3法をどのように補い、どのようにまちづくりに生かしていくかは、地方自治体に任されたと言えるでしょう。各地域がそれぞれの創意工夫を発揮して、対応していくことが大切で、そこが3法活用の最大のポイントとなります。


○ まちづくり関連3法の整合性を図る仕組みづくりが必要である 地元住民のまちづくりに対する熱意とコンセンサスがあれば、まちづくり関連3法は有効に機能するでしょう。この熱意を受け止め、合意形成をはかる仕組み作りが重要です。このために地方自治体はまちづくり関連3法の整合性を図り、その実効性を確保することが大切になってきます。また、まちづくり関連3法の対象は、都市計画、商業、道路・交通 、環境など幅広い分野にわたっています。地方自治体内の都市計画・建設部局や商業部局などが連携して、総合的な取り組みを行うことが望まれます。 ○ 首長の強いリーダーシップを期待する 都市計画を行なう際、必ず私権の制限という問題が出てきます。都市計画に当たって、できる限りそれに関わる人たちのコンセンサスを得て、ソフトランディングすることが望まれますが、それは容易なことではありません。住民の理解と支援のもとに、地方自治体の首長が強いリーダーシップを発揮しないと都市の問題は解決しません。また、3法の実効性も確保できないでしょう。 ○ 行政間の隙間をつなぐ広域協議の仕組みが必要である 都市政策は市町村単位、都道府県単位で推進されていて、地方自治体間の調整が不十分です。このため、大規模集客施設の立地の可否について、周辺市町村が土地利用計画等に重大な影響があると判断したときには、当該市町村と周辺市町村との間で立地の可否に関する広域協議ができる仕組みが必要になってきます。
○ グローバルスタンダードに合ったまちづくりを推進すべき 多くの先進国の場合、「計画があって初めて開発が許可される」ことがまちづくりの基本になっています。例えば、ドイツでは、市町村単位 での都市計画マスタープランである「土地利用計画」があり、それに沿って私権の制限をともなう「地区詳細計画」が定められています。大規模小売店の開発や建築が許可されるのは、地区詳細計画が決定されている地域で、かつその計画に則したものだけです。地区詳細計画で問題のない地域に出店する場合でも、中心市街地への影響や、身近な購買機会の確保などの観点から開発許可を審査します。また、アメリカでは、州や市によって制度が異なりますが、一般 的には厳しいゾーニングで詳しく開発の内容を規制しています。
土地利用計画をベースに、中心市街地活性化やまちづくりへの影響などを考慮して開発許可を運用するというのは、グローバルスタンダードだと言えます。わが国でも、このような事例を参考にしながら、日本型のまちづくり制度を作り上げていく必要があります。

2−6 まちづくりの方向

経済の国際化が進展するのにともない、価値観の違う外資系企業も多く出店しきます。今後のまちづくりでは国際化を念頭におき、商業という産業政策のスキームと、都市計画という都市政策のスキームとを合わせたきっちりした枠組みをつくり、自分たちのまちを発展させていくことが必要です。魅力と特色あるまちづくりを推進するためには、商業の果 たす役割が期待されているのです。



○ 脱工業化時代の都市計画へ 日本の都市計画は工業化を配慮して考えられてきましたので、まちの中心に自然発生的に形成されてきた商業地については、用途地域も後追い的な設定にならざるを得なかった面 があります。しかし、既に脱工業化時代、経済のサービス化時代となり、今後商業サービス機能が都心でさらに重要性を増していくことは避けられません。業務・商業、サービスに対応する土地のフレーム、配置をどう考えるか、都市全体の経済規模、運営の中で商業をどう位 置づけていくか、というマスタープランづくりが求められています。その際には、商業の活性化に欠かせない都心居住の促進に加え、福祉、環境、文化の観点にも配慮した魅力と特色あるまちづくりをめざす必要があります。 ○ まちづくりに熱心な地域を応援する 魅力と特色あるまちづくりの担い手として商店街がクローズアップされていますが、結局は地域住民の選択にかかっています。既存商店街の存続を支えていくのか、そのために大型店や一般 事業所、都市型産業を誘致するのか、などについては地域住民が選択し、取り組んでいかないとまちは活性化しないということです。地域住民の選択肢のひとつとして、大規模小売店をまちづくりに利用することも考えられます。熱意をもってまちづくりに取り組む地域を行政が応援するようにすべきです。
○ まちづくり組織のあり方を見直す 行政主導から住民主導へとまちづくりを転換する好機です。まちづくりの手法として、最近、住民参加のまちづくりが注目を集めています。神戸市や東京都の世田谷区は、行政主導のまちづくりに住民が参加していく方式で、その中にまちづくり協議会が位 置づけられました。最初から何かの事業を目的にした事業型の支援システムです。一方、豊中市は、初期段階での組織づくり、合意形成を行政が側面 から支援するという方式で、何かの事業をすることは目的としていません。まちづくりには時間を要することを考えれば、継続して計画を考えることのできる組織づくりが何より重要です。その点で豊中方式は、今後の組織づくりの良き参考となります。大阪市でも、「大阪市まちづくり活動支援制度」が発足し、まちづくりの整備手法がはっきりしていない構想づくり・組織づくりの段階からの支援を始めました。これらの動きが、まちづくり、都市計画に反映されていくことが望まれています。

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2003.4.1更新
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