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韓国にみるIT普及のポイント


4コンテンツビジネスの確立

多くの人がインターネットを使い、その中心が娯楽であるという韓国の状況は、オンラインゲームや動画配信などのコンテンツビジネスにとって良い環境である。しかし、多くを無料で提供していたインターネット関連業者は苦しい状態にあった。それが最近、念願の「コンテンツの有料化」に成功しつつあり、収益を上げることのできるビジネスとして確立するようになった。立ち上がりの時期であるため、統計データはないが、個別の成功例としては以下のようなものがある。
  • 「アバター」を使ったコミュニティサイト「SayClub」(http://www.sayclub.com/)は2001年3月から毎月10億ウォン(約1億円)を売上(ZDNet/JAPAN Broadband:NEWS2002年8月27日
  • オンラインゲームサイト「Hangame.nager.com」では、2002年上半期の売上が30億円、営業利益が13.6億円に上った。(同上)
  • 携帯小額決済の代金回収サービス「TELEDIT」は00年7月サービス開始から01年8月末で累積売上200億ウォン(20億円)突破 (TELEDITサービス提供社 ダウムのHP http://www.danal.co.kr/より)
このようにコンテンツビジネスの確立が見えてきた韓国であるが、ここでは、韓国特有の携帯小口決済と、利用者の意識の変化について触れる。

4-1 携帯小額決済

コンテンツの有料化が成功した基盤には、韓国独自の決済方式「携帯小口決済」が上げられる。携帯小口決済の仕組みは次のようになっている。

図表 6 携帯小口決済の仕組み

  1. 利用者はコンテンツプロバイダのホームページで購入意思表示をする。(氏名、住民登録番号、携帯メールアドレスなどを入力)
  2. コンテンツプロバイダは料金回収代行会社へその情報を送る。
  3. 料金回収代行会社はパスワードを作成し、携帯電話会社に送る。
  4. 携帯電話会社は携帯メールアドレスへパスワードを送る。
  5. 利用者は送られたパスワードをホームページに入力し、作業完了。 請求は毎月の携帯電話料金とともに行われる。

(手数料は利用者が払う料金を100とすると、携帯電話会社2.5〜5、料金回収代行会社10、コンテンツプロバイダ85〜87.5)

この決済方法は2000年にサービス開始されたが、インターネットユーザに指示され、クレジットカード決済と並ぶ主要な決済方法になっている。

図表 7 (韓国での)有料コンテンツの決済方式

インターネット利用者数および利用形態調査(韓国インターネット情報センター)

携帯小口決済がここまで多く利用されるようになったのには、いくつかの理由が考えられる。携帯小口決済を他の決済方法と比較すると次のようになる。

図表8 各決済方法の比較
携帯小口決済 クレジットカード 郵便・銀行振込 銀行引落し プロバイダ決済
開始手続が簡単 ×
支払、回収が容易 ×
パスワード不要 × ×
学生も利用可能 ×
匿名性 × ×
開始手続きが簡単
携帯小口決済は、初めて決済を始める時の開始手続きが簡単でその場ですぐにできる。試しにやってみようというユーザにはこれは大きい。携帯小口決済と比べると、インターネット銀行を使った方法は口座開設に手間がかかる。
支払、回収が容易
携帯小口決済は、支払い、回収を携帯電話料金の支払、回収の仕組みをそのまま取り入れているので容易である。また、未収の場合、携帯電話が止められるので未収の不安も少ない。
パスワードを覚えておく必要がない
携帯小口決済ではパスワードを覚えておく必要がない。メールで送られてくるパスワードを入力すればよい。プロバイダ決済、インターネット専用銀行引落しなどでは、パスワードが必要となる。パスワードの管理は非常に難しく、破られにくいパスワードを設定し、定期的に変更するなどを大変煩わしい。携帯小口決済ではユーザによるパスワード管理が不要のため、ユーザの安心を得やすい。
学生でも利用可能である
コンテンツビジネスについては若者をターゲットにしやすい。メインターゲットである学生が使えない決済方法では意味が無い。クレジットカード決済のデメリットがここにある。携帯電話であればほとんどの学生、若者が持っているため、この点でも携帯小額決済はすぐれている。

そして、携帯小口決済は、セキュリティも高いといえる。インターネットの世界だけでセキュリティを保つのは難しく、パスワードなどは管理が難しい上、盗まれてもすぐにわからず、利用者は不安を感じる。しかし、携帯電話を併用することにより、不安心理を減らすことができる。携帯電話を盗まれないように注意することはできるし、日常使うものなので盗まれればすぐに気づく。

このように携帯小口決済という、有料コンテンツの決済に適した方式が普及した韓国に対し、日本では、そのような決済手段は確立されていない。日本でインターネットを利用し、製品やサービスを購入した際の決済方法は以下のようになっている。

図表9 (日本での)製品・サービス購入の際に利用した決済方法(複数回答)N=739

インターネット白書2002 (c) Access Media/impress, 2002)

このアンケートは、有料コンテンツの購入だけでなく、オンラインショッピングなど商品の購入も含まれているので、代引きなどの比率が高くなっている。有料コンテンツの決済にはインターネット専用銀行引落し、プロバイダなどの会員制決済などが期待されているが、韓国の携帯小口決済のように普及するかは不明である。

韓国では国民全員に「住民登録番号」が振られているので個人を特定しやすいことも携帯小口決済が可能となった一因ではある。しかし、同様の方法は、i-modeやj-skyなどの有料サイトの課金システムを使えば十分実現可能と思われる。携帯電話会社に問い合わせたが、「このような仕組みは検討してはいるが実現はしていない」ということであった。携帯電話会社にとってもメリットがあると思われるが、積極的な動きはないようである。

携帯小口決済サービスと同じである必要はないが、日本でコンテンツビジネスが確立するには、適した決済手段が必要である。

4-2利用者の意識変化

コンテンツの有料化については、利用者の意識変化についても注目に値する。

図表10 (韓国での)コンテンツの有料化について

インターネット利用者数および利用形態調査(韓国インターネット情報センター)

韓国での意識調査は上記のように、有料化を容認しているユーザが半数となっている。半数も容認しているとも言えるし、半数しか容認してないとも言える。しかし、他国と比べると圧倒的に高い。例えばアメリカの調査会社Jupiter Media Metrixによる調査では、アメリカのインターネット利用成人の70%もが「コンテンツに金を払うのは理解できない」という調査結果が出ている。(http://japan.internet.com/wmnews/20020319/10.html

韓国でも利用者がはじめから有料化を容認していたのではなく、ここまでくるのに時間はかかった。多くのサイトが有料化を試みてはユーザ離れを起こすということを繰り返してきた。そのような状況で、コミュニティサイトSAYCLUB(http://www.sayclub.com/)は有料化への変更をうまく乗り切ることができた例として良く挙げられる。同サイトはアバター(自分の分身となるキャラクター)を使ったコミュニティサイトであるが、有料会員制とすると利用者が逃げてしまうので、利用そのものは無料だが、アバターのコスチュームや登場音などを有料化するという工夫で収益基盤を確立することができた。

いくつかのサイトがこのように工夫をすることで有料化が認められるようになると、その後、多くのサイトが次々と有料化され始めた。そうした状況で、地上波TV放送局SBSは放送終了した番組を有料化したが、これについては特に工夫があるというよりも、ユーザが有料化に慣れたので受入れられたという面が強いようである。

韓国インターネット情報センターの「インターネット利用者数および利用形態調査」では、有料コンテンツを購入した経験のあるユーザは15%以下と高くなく、まだまだこれからだが、明らかに日本よりは進んでいる。日本で利用者が有料コンテンツを容認するようになるには、これから多くのサイトが有料化の失敗を繰り返す必要があるだろう。最新システムを導入することは短期間でできるが、人々の認識は変えるのは時間がかかる。日韓のこの差はしばらく埋まらず、韓国企業が有料コンテンツ配信でこれから培うノウハウは、日本でコンテンツ有料化が容認されたときに、大きな脅威となっているかもしれない。


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2003.4.1更新
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