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年金改革に関する意見
平成10年7月9日

わ急速に進展する少子・高齢化のもとで、わが国の年金制度は、国民や企業に安心感を与えるとともに、経済社会の再生が図られるよう、大きな変革を迫られている。
公的年金については、現行の給付水準を今後も維持する場合、2025年には国民・企業は現在の2倍の保険料負担を強いられることになる。このような大きな負担は、わが国全体の活力を削ぐ結果 を招くことが明白である。特に、従来の賦課的な方式による保険料負担は、少子・高齢化のもとでは世代間の不公平感を高めるものとなる。また、国民年金(基礎年金)は国民全体の老後の生活保障を支えるものであるが、保険料徴収・負担や財政支出のあり方など、抜本的な見直しが課題となっている。
一方、企業年金についても、現行の確定給付型の場合、積立不足から後発債務の問題が顕在化するなど、抜本的な改革が必要である。
将来の年金制度は、情報開示を十分に行いつつ自己責任原則の考え方を導入していくことが重要である。また、中核となる公的年金に加え、企業年金や個人年金の役割を高めていくべきである。特に企業年金においては、中小企業の年金を育成・強化することも必要である。
そこで、平成11年度の年金制度改正にあたり、公的年金については、厚生年金等保険料負担の積立方式への移行ならびに給付水準の見直し、基礎年金財源の税法式導入の検討等について、また企業年金については確定拠出型年金制度の導入等について、以下の通 り強く要望する。




1.公的年金制度の見直し


1)厚生年金等の保険料負担の賦課的方式から積立方式への段階的な移行

    従来の賦課的な年金方式を存続させるには、高度経済成長のもと、少ない高齢者を多数の若者世代が支えるピラミッド型社会がその前提となる。しかし、わが国は少子・高齢化が進み、経済も低成長が続くことが明らかな現状では、年金財政の運営が極めて困難となり、給付と負担のあり方をめぐって世代間の不公平が不可避となってしまう。
    そこで、厚生年金等の報酬比例の年金財政のあり方を抜本的に改正し世代間の不公平感を取り除くため、保険料負担を段階的に賦課的方式から積立方式に移行していくべきである。

2)標準生計費への給付水準の段階的見直し

    国民・企業の負担は限界に近づきつつあり、今後、現役世代の負担を抑制していくためには給付水準の引き下げもやむをえない。ただし、国民の不安を引き起こさないよう十分な配慮が必要である。
    そこで、給付については標準生計費(夫婦2人1カ月18万2590円、平成9年4月人事院調べ)をカバ−できる程度の水準に、段階的に見直していくべきである。

3)保険料算定基礎の月収から年収への変更

    現在、厚生年金の保険料は月給に対して賦課されており、賞与については特別 保険料1%のみ徴収されるだけで、給付には反映されていない。しかし、年俸制の導入など、給与の支払い形態が多様化していることから、保険料負担の公平化を図るため、保険料徴収を賞与を含めた総報酬制とすることが望ましい。

4)支給開始年齢の65歳据え置き

    老齢基礎年金の支給開始年齢を65歳から、平成28年度以降31年度まで3年ごとに1歳ずつ67歳に引き上げる案がある。しかし、平成6年改正時に、特別 支給の老齢厚生年金の定額部分(老齢基礎年金に相当)の支給開始年齢を、平成13年から段階的に引き上げることが決定したばかりであり、老齢基礎年金の支給開始年齢の再引き上げは国民の年金不信を招く恐れがあるため、現状を維持することが望ましい。

5)勤労収入のある高齢者への対応

    勤労収入のある65歳以上の高齢者は、所得保障の必要性が薄いので年金支給を制限すべきとの意見がある。しかし、すでに在職老齢年金を減額支給されている60歳〜64歳の在職者も含め、保険料拠出と年金支給が保障されている現行の社会保険方式のもとでは、給付制限を行うべきではない。また、年金給付制限は高齢者の勤労意欲を阻害することになり、避けるべきである。従って、勤労収入のある60歳以上の高齢者に対しては、公的年金等控除を見直し、年金給付と勤労収入を合算して所得課税することで対応されたい。
6)賃金スライド制の廃止
    現行の年金額は、毎年の物価の伸びに応じて改定される物価スライドと、5年ごとの財政再計算において現役世代の手取り賃金の伸びに応じて改定する賃金スライドにより決定されている。しかし年金受給開始後は、物価上昇に応じて購買力を維持できれば年金の実質的価値も維持できるので、賃金スライド制は廃止し、物価スライドのみとするべきである。

7)国民年金(基礎年金)の未加入者・未納者対策の徹底と、税方式導入の検討など抜本的見直し

    国民の老後の生活保障を支える国民年金(基礎年金)について、財政支出のあり方を含めて抜本的に見直すべきである。総務庁の発表によれば、国民年金の第1号被保険者(自営業者・農家・学生など)のうち、未加入者や未納者、免除者が増えており全体の34.2%を超えている。保険料未納者の増加は年金制度の根幹を揺るがし、加入者の負担をさらに悪化させるため、保険料の徴収方法を改善するなど未納者対策を早急に実施するとともに、徴収にかかる事務コストの低減を図られたい。
    さらに、国民皆年金制度が実質上、機能していない状況下では、消費税率の引き上げなど税方式による財源の確保と国庫負担のあり方について、思い切った改革を検討するべきである。

2.企業年金制度の見直し


1)確定拠出型年金制度の導入

     わが国の企業年金における給付は、加入した期間や給付水準に基づいてあらかじめ給付額が定められる確定給付型年金制度となっている。しかし、同制度では加入者の年齢構成や運用環境によって、積立金が不足すると後発債務が生じ、制度の維持・運営が困難になる。
     そこで、厚生年金基金・適格退職年金などの確定給付型年金制度に加えて、あらかじめ決められた保険料を積み立て、その積立金の運用利回りによって事後的に給付額を決める確定拠出型年金制度を導入することが望ましい。
     一方、確定拠出型年金制度を導入したうえで、個人勘定を創設することにより転職先の企業年金にも移管できる年金のポータビリティも実現するべきである。
     なお、税制上、企業の拠出金、従業員の掛金、積立金については非課税とし、運用益についても課税を繰り延べ、給付時課税に一本化してもらいたい。

2)給付水準の引き下げ要件の弾力化

     現在の企業年金制度は、平成9年に規制が緩和され給付水準の引き下げも可能になったものの、企業が債務超過に陥る、あるいは掛け金の払い込みが困難になる、さらに労使間合意や官庁の審査などの厳しい条件を満たさない限り給付水準を引き下げることができないなど、特に適格退職年金を採用している中堅・中小企業にとって依然厳しい要件となっている。しかし、現下の経済環境のもとで積立不足への追加拠出を続けることは、企業経営を圧迫し破綻させかねない。ついては、給付水準の見直しにかかる要件について一層の緩和を図られたい。

3)企業年金法(仮称)について

     現在、大蔵・厚生・労働の3省で、すべての企業年金を包括的に取り扱う企業年金法の創設について検討されている。これにより、厚生年金基金と適格退職年金における税制上の不公平の是正がなされることについては評価できる。ただし、企業年金制度は、各企業が労使間合意により自己責任に基づいて自由に運営されるべきである。したがって、コスト増を招き、企業年金運営のモラルハザードにつながるような支払い保証制度などの新たな規制の導入には反対である。

4)特別法人税の廃止

     厚生年金基金と適格退職年金は、同じ私的な企業年金でありながら、積立金に対する税制上の扱いが異なっており、事実上、適格退職年金のみに特別 法人税が課税されている。適格退職年金は、規模の小さい中小企業でも比較的設立しやすい制度であり企業年金の拡充の観点からも特別 法人税を撤廃するべきである。

以 上

年金改革に関する意見 建議先(案)

大蔵省

  • 大蔵大臣
  • 政務次官、事務次官
  • 大臣官房 官房長
  • 〃   総務審議官
  • 審議官
  • 主税局 局長
  • 国税庁

  • 国税庁長官
  • 次長
  • 国税審議官
  • 課税部長
  • 所得税課長
  • 法人税課長
  • 消費税課長
  • 課税企画

  • 厚生省

  • 厚生大臣
  • 政務次官、事務次官
  • 大臣官房 官房長
  • 〃   総務審議官
  • 年金審議官
  • 年金局 局長
  • 〃  企画課長
  • 〃  年金課長
  • 〃  企業年金国民年金基金課長
  • 年金審議会 会長
  • 社会保険庁

  • 社会保険庁長官
  • 次長
  • 運営部長
  • 企画・年金管理課長
  • 年金指導課長

  • 通商産業省

  • 通商産業大臣
  • 政務次官、事務次官
  • 審議官
  • 大臣官房 官房長
  • 産業政策局 局長
  • 産業政策局 企業行動課長
  • 産業構造審議会 会長
  • 中小企業庁

  • 中小企業庁長官
  • 次長
  • 小規模企業部長
  • 共済制度調査官

  • 労働省

  • 労働大臣
  • 政務次官、事務次官
  • 大臣官房 総務審議官
  • 〃   官房長
  • 労政局 局長
  • 〃  勤労者福祉部長
  • 自治省

  • 自治大臣
  • 政務次官、事務次官
  • 大臣官房 官房長
  • 〃   総務審議官

  • その他

  • 各党党首
  • 地元選出国会議員
  • 大阪府知事
  • 大阪市長
  • 年金福祉事業団 理事長
  • 雇用促進事業団 理事長
  • 厚生年金基金連合会 理事
  •  

    〔(写)送付先〕

    ○日本経営者団体連合会 会長
    ○日本労働組合総連合会 会長
    ○日本労働組合総連合会 大阪府連合会会長
    ○日本商工会議所 会頭
    ○7大都市(札幌・東京・横浜・名古屋・京都・神戸・福岡)商工会議所 会頭
    ○関西経済連合会 会長
    ○関西経済同友会 代表幹事
    ○関西経営者協会 会長
    ○大阪工業会 会長
    ○近畿通商産業局 局長
    ○社年金数理人会 会長



    2003.4.1更新
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